路傍の感想文

創作物の感想

ドラマCD『子供の領分』感想

 子供(ガキ)の領分〈ACT・1〉ナメてんじゃねぇよ (角川ルビー文庫)

 

 

 

 

子供の領分ハイパー(3) 到達点 (ルビー文庫)

子供の領分ハイパー(3) 到達点 (ルビー文庫)

 

 

いやー長かった、というのが最初の感想。全11巻という巻数に加えて、各巻2枚組ないし3枚組なので、毎朝流しても聴き終えるまで二週間かかった。でも、この作品は全巻揃えて集中的に聴かなければ面白さが伝わらないと確信していたし、実際その通りだったので、毎日この作品だけを聴き続ける日々は正解だったと思う。

 

原作は1996年から2006年にかけて刊行された小説『子供の領分』シリーズ(吉原理恵子著、角川ルビー文庫刊13巻、単行本1巻)。茅野三兄弟の次男・広海くんを中心に、容姿端麗で才能溢れる人気者集団「御三家」との友情や、イケメンとの間で巻き起こる小事件をコミカルに描いた作品だ。

 何を隠そう人生で初めて購入したBL小説で、我がBL歴の中ではエポックメイキングなタイトルでもある。当時は純情な中学生だったので、本屋のレジに持っていくのにも勇気が必要だった。勇気と相談した結果、とりあえず3巻まで購入して電車の中で読み始めたところ、あまりの面白さに夢中になって最寄り駅を乗り過ごしてしまい、翌日には文庫全巻と単行本を揃える羽目になったのは今でも思い出深い。

当時ドラマCD版の存在も知ってはいたが、お金もなければ購入方法も分からず、泣く泣く諦めたのは苦い記憶だ。

あれから☓☓年経って、ようやく全巻揃える財力を得ることができたので、今回集中して聴いてみることに。

 

 まず、原作小説を読んでいた中学生時代と今の自分では感性も考え方もだいぶ変わったことが突き付けられた。中学生時代は気にならなかった描写に引っかかりを覚えて、場合によっては不快に思うこともあった。

例えば、レギュラーキャラから一回のみ登場キャラまで個性豊かな男性キャラクターが配置されているのに対して、女性キャラクターは「イケメン大好き」「イケメンが登場するとキャーキャー騒ぐ」「ミーハーで噂話ばかりしている」レベルの個性づけしかなされていない点。

主人公の母親と同級生の女子生徒・児玉あずさを除いて、登場する女性全員がイケメンに騒ぐ。まるで女性はイケメンに騒ぐ頭の軽い奴らだと言わんばかりの画一的な女性像が繰り返し描写される。児玉あずさにしたって、「広海くんに意見を言えるのは女傑の児玉だけ」と評される特殊な女扱いだ。

広海くんに注意された女子生徒たちが泣き出すシーンや、不注意で広海くんと堤くんに怪我を負わせた女子生徒たちが泣きながら謝罪するシーンでは、「女子はすぐ泣く」「女子たちは涙を見せれば何でも解決すると思っている」とでも言わんばかり。確かに作中の女子生徒たちの涙腺は緩いが、それでも彼女たちなりの悲しみや苦悩があるから涙を流してしまうわけで、そんな彼女たちの気持ちを「女だから」と切り捨てるのは差別的である。

 

キャラクターたちが座談会形式でトークするおまけトラックでは、キャラクターが「原作者の吉原理恵子が~」「編集のミーハーたちが~」とメタ発言を連発するのがいたたまれない。ここでも原作と編集の女性たちがイケメンに騒いだり、誰が攻めか受けかで盛り上がっていたりするようで、男性キャラクターたちは「バカじゃねえの」と呆れている。男性キャラは冷静かつ頭脳明晰、女性はイケメン大好きなおバカという本作の構図が凝縮されており、聴いていて辛くなった。

 

 

広海くんが中学二年生のときに起こした暴力事件に関しても、昔読んだときは広海くんが被害者だと思っていたが、今改めて考えると広海くんの行為を全面的に肯定することはできない。正当防衛だったとしても広海くんが暴力を振るったことに間違いはない。さらに広海くんの暴力事件のせいで所属していたサッカー部が無期限活動停止になって、三年生たちが県大会へ進めなかったことも事実だ。

しかし、広海くんは反省せず、家族も友達も「広海は間違ってない」「仕方がなかった」と擁護するだけだ。サッカー部員への謝罪の言葉もないどころか、むしろ広海を責める三年生部員たちを「馬鹿な奴らだ」と見下す。広海くん側の言い分も理解できるものの、県大会への夢を絶たれた三年生たちの心情を否定し、小馬鹿にするのはあまりにも他者への配慮に欠けるのではないかと感じた。

 

広海くんが「起きたことは変えられないから来年に向けて切り替えよう」とポジティブな気持ちになれるのは、広海くんが強いからではなく、広海が事件を引き起こした加害者だからだ。加害者は前向きになったとしても、巻き込まれた被害者側は一生忘れないだろう。

原作小説を読んだときは広海くん側だったのに、今は三年生に共感するのはやはり人生経験を積み重ねたからだろうか? 何一つ悪いことをしていないのに絶望の底に突き落とされた三年生たちが、自分たちの夢を潰したのにも関わらず意気揚々としている広海くんを腹立たしく思うシーン。私も広海くんが許せないと思う。

 

しかし、本作は悪いところばかりではない。

ストーリーは、原作同様巻数を重ねても作中時間はほとんど進まず、事態は何ら進展しない。「部活を早退する理由を説明する為に電話をかける」というだけのエピソードだけで60分くらい尺を使ってしまう。それだけの話でも、飽きずに楽しく聴くことができるのは本作ならでは。会話の応酬は小気味良い。

キャラクターたちの複雑な関係も面白い。広海くんを中心にして同級生、部活の先輩後輩、小学生時代のチームメイト等縦にも横にも繋がりがある男子高校生たち。円満な友達関係だけではなく、知り合い以上友達未満な関係や、中学時代は親友だったが別々の高校に進んだ現在は距離を置いている者たちなど、人間模様は一筋縄ではいかない。彼らの会話を通して、愛情や嫉妬、困惑など複雑な心情を想像できるのが面白い。

 

キャストは知名度も演技力も人気もトップクラスの豪華声優陣。2001年から2007年にかけて発売されたドラマCDということで、現在はBL引退されているキャストも起用されている。特に、主演の関智一さんは2005年にスネ夫役に起用されてからはBL作品には出演されなくなったので、ギリギリのタイミングだったと思う。
役名なしのモブ・ガヤの声優陣も三浦祥朗、武内建、立花慎之介小野友樹川原慶久と後年大活躍される方々が揃っている。主人公たちが容姿・性格・美声で称賛されるシーンにおいて、主人公たちを褒め称える地味な一般人側も美声すぎて説得力に欠けるのは、有名声優が演じるドラマCDならではの弊害だろう。

 

惜しいのは、西崎関連のエピソードが音声化されなかった点。せっかくドラマCDに日比野を登場させて、過去の暴力事件も掘り下げたのに、事件に関わった人間たちの現在を描くことなくシリーズ終了させたのは勿体ない。ドラマCDでも日比野の気持ちに決着を付けさせてあげたかったし、青木くんと川島くんにも終着点を見せてあげてほしかった。

 

【キャラクター別感想】

・茅野広海(演:関智一

最強で最凶の主人公。茅野三兄弟の次男。蓮見高校二年生。

原作とドラマCDで印象がだいぶ変わった人物の一人だった。小説では広海くんの心理描写が緻密に描かれており、広海くんならではの考え方にも共感できた。しかし、内面描写を省いて広海くんの台詞だけピックアップするドラマCDだと、彼の言動は自己中心的で傲慢に思える。彼の貫く正義も倫理もただの我が儘にしか聞こえない。

 だが、はたして広海くんだけが特別我が儘と言えるだろうか?大なれ小なれ人間は自分には甘く、他人には厳しい自己中心的な生き物だ。広海くんに限らず誰もが自分の尺度で物事を判断している。自分を棚に上げて、広海くんを批判することこそ傲慢ではないか。

 広海くんへの印象の変化は、自分自身の考え方の変化を反映しているようだ。

 広海くんが自分の信じる道を突き進んでいる姿は清々しく、今も昔も愛される主人公に変わりはない。

 

・茅野陽一(演:関俊彦

眉目秀麗・頭脳明晰な長男。大学一年生。

原作とドラマCDで印象が変わった人物その2。原作では普通に読み流していたが、音声だと陽一さんが美貌を褒められるシーンの連続にげんなりする。陽一さんに出会った人間はもれなく美貌を褒め称えるが、一・二回ならともかく、毎回褒められると、胡散臭く見えてくる。途中から陽一さんが洗脳しているようにしか思えなくなった。

 陽一さんのように容姿に恵まれていたら、心の余裕が出来るだろう。

 

・茅野大地(演:三宅健太

バスケに夢中な三男。バスケの強豪校・城惺高校一年生。

寡黙なキャラクターということで、原作以上に出番がない。しかし、要所要所で大ちゃんの信念と深い情がしっかりと描かれているので満足した。大ちゃんは絶対に広海くんを裏切らないだろうし、見捨てることもしないだろう。 

いつの日か大ちゃんのマグマのような情熱が爆発する様を見たい。

 10巻のキャストトークによると、三宅さんは大地役が初めて名前のある役だったそうで、キャスティング担当の先見の明に感謝。

 

・小林芳樹(演:三木眞一郎

広海の親友。「蓮見高の御三家」の一人。陸上部所属で県のタイトルホルダー。蓮見高校二年生。

 広海くんに惚れ込んで、広海くんの最大の理解者であろうとする小林くんの言動はいじらしい。小林くんが広海くんの一番の親友ポジションを得たのは、サッカー部の暴行事件がきっかけで広海くんがサッカーを辞めたからである。もしも事件がなければ広海くんの隣にはサッカー部の青木くんが立っていたのかもしれない。微妙な立場の小林くん。

 小林くんが広海くんを抱く妄想をして夢精するシーンはそんな小林くんの複雑な立ち位置が窺い知れる。

 

・椎名克彦(演:置鮎龍太郎

広海の友人で、「蓮見高の御三家」の一人。蓮見高校二年生。日舞の名取で「蓮見高の姫」と呼ばれる。頭脳明晰で冷静沈着。

 

 椎名くんと陽一さんは似た者同士だと思うので、二人の初対面シーンには緊張した。椎名くんと陽一さんは手を組むと最強のコンビだが、一度対立するとどちらが潰れるまで徹底的に戦うのではないか思う。

 

・新田薫(演:森久保祥太郎

広海の友人で、「蓮見高の御三家」の一人。蓮見高校二年生。「蓮見のアイドル」の異名を持つ童顔の持ち主だが、全巻通して目立った活躍はなし。原作小説では御三家の二人に負けまいとする新田くんの心情描写や広海くんへの想い等見せ場もあることにあるが、ドラマCDでは印象が薄い。男子にも女子にも分け隔てなく接する態度や上の下くらいの容姿など、普通っぽさが売り。現実的には一番モテそうな気がする。

 

・堤大悟(演:中井和哉

蓮見高校二年生。学年主席のヤンキー。通称「ニヒルな毒舌家」。小学生時代に広海と同じサッカークラブに所属していたが、広海には勝てないと挫折。サッカーの代わりに勉強を頑張っている。短ラン&ピアスのヤンキースタイルで登校していたのは、ただのファッションセンスの問題だったのだろうか。

 

広海くんのサッカーの才能に己の限界を見せつけられた過去を持つからこそ、当初はサッカーを辞めた広海くんにやたら執着していた強面男子。ところが、武藤先輩と加賀先輩との絡みが増えてからは、先輩に振り回される年下属性になった。もっと先輩たちに振り回されて、可愛い一面を見せてほしい。

 

 

 ・武藤和将(演:森川智之

堤の従兄弟で蓮見高校三年生。生徒会長。頼れる兄貴キャラで生徒からも先生からも信頼厚い。

 

森川さんの演技は原作のイメージぴったり。一歩間違えば傲慢で鼻につきそうなのに、まったく不快に感じないのはさすがの人徳である。この人に任せたら全て上手くいきそうな気がする。

 

 ・麻生涼介(演:坪井智浩

蓮見高校三年生。副生徒会長。武藤の参謀。理知的な鬼畜眼鏡タイプなのだが、ドラマCDでは目立った活躍はなし。キャストトークで麻生役の坪井さんが「武藤の小判鮫」と評していたが、それだけのポジションに収まっていたのが残念でならない。単行本で描かれた麻生×武藤の激しい濡れ場も音声化すれば、印象が変わったと思う。

 

 ・加賀龍司(演:成田剣

蓮見高校三年生。「フェロモン垂れ流し」の存在そのものがエロい男。エロい声で「赤は凄まじく強く美しい」と語り始めたので吸血でもするのかと身構えたが、運動会の赤組の話で笑ってしまった。加賀先輩と武藤先輩の会話シーンはマフィアの密談にしか聞こえない。加賀先輩だけ別次元にいる。

 

加賀先輩と言えば幅広い交際関係。放課後には加賀先輩お目当てに女子大生たちが校門で群れをなしているが、原作を読んだ中学生のときには「高校生なのに大学生と付き合うなんて大人っぽい!」と憧れたのに、今となっては「大学生なのに高校生に手を出すなんてショタコンだな」と思ってしまう。自分の老いを感じた。

 

 ・日高千明(演:櫻井孝宏

城惺高校バスケ部員。高校一年生。通称「バスケ部のポチ」。思ったことはすぐ口に出してしまう明るい性格の持ち主。広海くんと大ちゃんに振り回される苦労人。

 ほとんど言葉を交わしていないのに、チームメイトで同学年でもある大地のバスケの才能と情熱を信頼しているのは毎日一緒に練習しているからだろうか。日高くんは爽やかで好感度高い。

 

・藤田聡(演:千葉進歩

城惺高校バスケ部主将。武藤先輩とは別種類の頼れる兄貴分。

 電話越しで会話した陽一さんの美声に感嘆されていたが、藤田先輩も美人声なので自信を持ってほしい。

 出番は少ないが、視野が広く冷静な判断力を持つしっかり者だということはよく分かる。将来有望な人物。

 

 ・桂木(演:杉山紀彰)

城惺高校バスケ部員。城惺高校を訪れた広海くんの物怖じしない態度に圧倒される。ただそれだけの出番だが、声帯が杉山さんなので目立つ。もっと活躍してほしい。

 

 ・青木和巳(演:鳥海浩輔

城惺高校二年生。サッカー部所属。広海くんとは中学時代サッカー部でコンビを組んでいた。もしも広海くんがサッカーを続けていれば、今も隣に立っていたかもしれない人物。

 

広海くんという片腕を失いながらも、未来を見据えて前に進もうとする青木くんの姿に勇気づけられる。広海くんも青木くんもお互いを責めずに今も友人であり続けようとするのは、堅い友情とこれまで積み重ねた時間があるからだろうと思う。

 

青木くん役に鳥海さんをキャスティングする点は意外だった。

 

 ・川島祐一郎(演:小西克幸

蓮見高校二年生。サッカー部所属。広海くん、青木くん、堤くんとは小学生時代に同じサッカークラブに所属していた。中学は別の学校だったので、広海くんの事情を知らず、高校ではしつこく広海くんをサッカー部に勧誘していた。

 

青木くんと大地くんの立場を考慮して余計な口出しをしなかったシーンで川島くんが信頼に足る人物だと分かる。青木くんと広海くんと関わるシーンがもっと聴きたかった。

 

 

・日比野聡史(演:羽多野渉

 蓮見高校三年生。中学時代サッカー部に所属。下級生の広海くんが起こした暴力事件で県大会出場の夢を断たれる。その腹いせに集団で広海くんをリンチした。

高校では中学時代のリンチ事件を隠していたが、広海くんに恨みを持つ同級生たちの陰謀に巻き込まれ、大地くんから睨まれる羽目に。「俺は悪くない」と訴えるが、その言動のためにますます窮地に追い込まれる可哀想な人物。

 

 彼は自己弁護に走る弱い人間だが、彼の弱さは誰もが持ちうるものだと思う。日比野を責めたてることは容易いが、同時に日比野の苦悩も痛いほど分かる。私が日比野と同じ立場だったら耐えられるだろうか?

 

他人を切り捨てて、誰に何と言われようとも自分の思う通りに生きていく広海くん。

絶望と向き合い前に進もうとした矢先に思わぬ陥穽に巻き込まれる日比野。

どちらに共鳴するかと言えば、私は後者だ。

 

誰からも絶賛されるイケメン強者よりも、他人から唾を吐かれてもそれでも生きていくしかない弱者にこそ物語があるのではないか。日比野の切ない叫び声を聞きながら、とりとめもなく考え込んでしまった。