路傍の感想文

創作物の感想

ドラマCD『兄弟限定!』感想

 俺たちはもう兄弟なんだよ

 

 

生き別れの父が亡くなったと知らされ、8年振りに我が家に帰ってきた総一郎。その家には、初めて存在を知った二人の兄、長兄・雅東と次兄・要が暮らしていた。「あの家の相続については、一か月間の猶予期間を経て、最終的に残った者に譲る」。総一郎は遺言に従って家を相続するため、二人の兄と暮らし始める。ところがある日、兄たちの情事を目撃してしまう。(1巻)
「思えばそれが、全ての始まりで、全ての終わりだった」。時は5年前に遡る。父・馨の前では優秀な息子を演じていた雅東。しかし、馨が引き取った少年・要の登場で、今まで築いていたものが崩れていく。(2巻)

 

兄弟ものBLの定番を地で行く展開ながら、兄弟ものBLを根底から覆す結末に着地する作品。

原作は2005年から2010年にかけて刊行された同名漫画(如月弘鷹著、角川書店刊全5巻)。ドラマCD版は2005年に第1巻、2007年に第2巻発売。

 

遺産相続のために名前も顔も知らなかった兄たちと同居を始めた三男・総一郎(演:平川大輔)。ある日、彼が目撃したのは、長男・雅東(演:小西克幸)×次男・要(演:緑川光)の濡れ場だった……。

総一郎にとっては悪夢のような出来事から始まる第1巻。

衝撃的な場面だが、BL界では実兄弟・義兄弟問わず兄弟間で恋愛感情が芽生えて肉体関係が発生することは珍しいケースではない。総一郎の心情はさておき、兄弟ものBLならばごく普通の光景だ。
ところが、どうやら雅東と要は恋の成就の果てにセックスする仲に至ったわけではないらしい。

 「お前だって白川の一員になりたいんだろ。ならいっそ要みたいに俺のものになるか」

総一郎を誘惑する雅東。

「お前が欲しいのは俺じゃないだろう。お前が本当に好きな相手は、もう死んだんだ!!」

雅東を責める要。

雅東と要の間には、恋人同士の甘い空気は存在しない。二人のセックスは義務的である。
何故雅東と要はセックスしているのか?そもそも二人は本当に総一郎の兄なのか?
総一郎は8年の空白を埋めるかのように、家族の秘密を紐解いていく。

 

父と面差しが似ている次男・要。
父の才能を引き継ぐ長男・雅東。
二人に比べると父の息子らしいところは何一つ持ち合わせていない総一郎は、兄たちに追いつこうと奮闘する。

しかし、実は「何も持たない」総一郎こそが全てを手にしていた。

「お前には一生分からない。ただ血が繋がってるというだけで、何もかも手に入るお前なんかにはな」 

 明らかになった真実はなんとも皮肉的だ。

 

 

第2巻では、雅東の視点から兄弟の過去が明かされる。総一郎が辿り着かなった真相―雅東は何故兄弟を演じるために弟を抱いたのかについて雅東自身の口から語られる。

父さんの恋人にはなれないけれど、父さんの息子にはなれる。
馨の亡き妻の連れ子である雅東は、義父である馨への想いを心の中に閉まって、息子を演じ続けていた。
ところが、馨の遠縁に当たる女優の隠し子・要が引き取られたことで、馨の息子という唯一の立場も奪われそうになる。焦りと嫉妬を感じつつ、馨と顔立ちが似ている要を弟として認めた雅東。

しかし、ある日、要の誘惑に抗えずついに一線を越えてしまう。

要と兄弟にはなれない。馨に告げる雅東だったが、馨は「私たちは家族になれるはずだ」と語りかける。

 「分かったよ、父さん

    父さんの言うとおり、要と兄弟になるよ

 俺は父さんの息子だから」

家族になること。それが彼の願いならば。

愛する人のたったひとつの願いを叶えるため、雅東は要に「共犯者」になることを持ちかける。
抱かれなければ生きていけない要と、性欲をぶつけたい相手が目の前にいるのに制御しなければならない雅東。

それぞれの理由で性欲処理の相手を求めていた二人。彼らは兄弟の演技をする契約を結んで、体を重ねる。雅東と要の奇妙な関係はこうして始まった。

 

 

時間は現在に巻き戻る。新しく兄弟となった総一郎を連れて、馨の墓前を訪れた雅東たち。要と総一郎の会話を聞きながら、兄弟を演じた日々を回想していた雅東は、もうひとつの真実に辿り着く。

「貴方が望んで見届けられなかった願いを俺が引き受ける。貴方の願いを俺の望みにする」

全てを理解した雅東は要との破滅的な肉体関係を終わらせて、本当の兄弟になることを選ぶ。

総一郎の視点から追いかけていた白川家の秘密は、雅東の視点に切り替わって、ひとつの結論を迎えるのだった。

 

 

BL作品でありながら、男同士の恋愛関係を捨て、主体的に家族の在り方を選ぶラストは鮮やか。


巧みな心理描写と散りばめられた謎の回収によって明らかになるのは、亡き者によって支えられた生者たちの物語。兄弟相姦の裏側には、死者と生者の父子相姦が横たわる。

父への愛を心に秘めた息子。息子の愛を知りながら別の男を息子に差し出した父親。すれ違いは埋められず、息子の恋心は報われない。しかし、死を予感した父が想いを託したのは、他ならぬ息子であった。父の遺志を継いだ息子は、愛する父が遺してくれたものを守り抜く。

 

父子の愛は、兄弟相姦に変奏し、家族愛に終着した。愛は姿を変えて、息子の中で静かに燃え続ける。

愛する彼は亡くなった。でも、彼と暮らした家と、彼の息子たちは残った。ならば、家族としてやり直せる。

今度こそ幸せになるために、家族として総一郎と要と生きていくことを決断した雅東。ラストシーンは希望に溢れている。

 

 

【キャラクター別感想】


・園岡総一郎(演:平川大輔
三男。18歳。両親の離婚で10歳のときに父と離れ離れになり、8年振りに父と暮らした家を訪れたら、名前も存在も知らなかった兄たちと同居する羽目になった受難の主人公。
明るく真っ直ぐな性格で、ムードメーカー的存在。要に押し倒されたり、雅東に口説かれたりと兄たちに翻弄されながらも、しっかりと前を向いて兄弟の在り方を模索する姿が好印象。髪を切って覚悟を決めた姿が凛々しく頼もしい。

要が家を出て行き、雅東が兄弟であることを止めようとしたとき、総一郎だけが兄弟のままであり続けようとする。真相を知ってもなお、兄弟でいることを選択する総一郎はとても強い。

  

・白川要(演:緑川光
次男。22歳。飲食店で働く。クールビューティーでミステリアスな青年。根は真面目でしっかり者なのに、過去のトラウマのために男を求めてしまう人。


雅東とのセックスでは、普段の姿からは想像できない痴態を見せる要。本来の要自身の心を封じて淫乱な要になりきってセックスに集中している間、要は辛い記憶を忘れることができる。しかし、セックスが終わると再びトラウマに苛まれて、男を求めてしまう。まったく根本的な解決はできておらず、総一郎と同居しなくとも、いずれ要と雅東の生活は破綻しただろう。
要に必要なのは専門家による治療であったのに、セックスという安易な手段を選択してしまった要と雅東。愚かとまでは言い切れないが、不器用な人たちである。

 

・白川雅東(演:小西克幸

長男。映画の美術監督。強引に弟の要を抱く様子は、典型的な俺様攻め。ところが、実は……。

永遠に叶わない片想いを胸に秘めて、白川家を守るために兄弟を演じ続ける。どこまでも愚直で、可哀想な人だった。

馨の期待に応えるため、常に優秀な息子・立派な兄でいようとした姿がいじらしい。

要を抱いても心は満たされなかっただろう。きっと誰を抱いても雅東の空白は埋められない。

 

・白川馨(演:大川透
雅東、要、総一郎の父親にして元凶。映画の美術監督
天真爛漫でふわふわした印象だが、8年前に離婚、再婚した妻も3年足らずで死亡するなど家庭生活が長続きしないところに、馨の欠落がある。
雅東を愛せないのに、雅東からの愛を拒絶しない狡い人。雅東を傷つけたくなかったのだとしても、結果的に要は犠牲になり、雅東は苦しんだ。馨の優しさは猛毒だ。