路傍の感想文

創作物の感想

ゲーム『Lkyt.』感想

これは「英雄」たちの物語

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世界を滅ぼす魔物「虚」が棲むという、この世の果ての不毛の地。汀の国の民は、掟に従い、「虚」の襲来に備えていた。兵士の与も日夜鍛錬に励んで戦闘の腕に磨きをかけていた。ある夜、与の父たちが「虚」に襲われる。世界の命運を握る戦いの中で、若き英雄が辿り着いた答えとは……。

paradeより発売された2020年8月28日に発売された和風ファンタジー18禁BLゲーム。

「虚」と呼ばれる黒い魔物が跋扈する世界を舞台に、「虚」と戦う者たちの運命を描く。

 

主人公の与(演:風見灰児)は21歳。

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剣の才能に恵まれた平民出身の兵士。その天賦の才に驕ることなく、努力も怠らないストイックな青年である。国家への忠誠心も篤く、家族と国を守るためならば己の命を投げ出すことも惜しまない。各ルートで降りかかる苦難も己の運命として受け入れる。永羽は与を「異形の魂」と評するが、まさしく常人離れした自己犠牲精神の持ち主で、「英雄」の称号を得るにふさわしい人物である。

 

攻略対象は長流、永羽、ヤエル、按護の四名。主人公より年上かつ武人揃いの攻略対象たちだが、濡れ場では全員受けを担当する。

初回から攻略可能なのは長流、ヤエル、按護。永羽ルートへの選択肢は全ルート解放後に出現する。

 

攻略対象ごとに分岐するシナリオだが、長流ルートとヤエルルートはストーリー展開も結末も酷似。永羽ルートの結末も長流エンド・ヤエルエンドに似通っている。

他キャラクターと差別化されているのはサブ攻略対象の按護。按護ルートは毛食の異なる結末で、最も心に訴えかけてくるシナリオでもあった。

 

 

プレイ順は、按護→長流→ヤエル→永羽→按護(二周目)→隠しシナリオ「それから」。

 

①長流(演:藤堂ロキ)

皇王の次男。23歳。高潔で聡明な青年。

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魔物の襲撃で父を失った与。長流は与に皇族としての責任と戦いへの誓いを語る。二人はお互いの戦闘能力を高めるために「結魂」(魂を結びつける儀式。結魂を行うことで意思伝達と呪力の強化が可能になる)することに。行動を共にするうちに、与は長流に惹かれていく。

 

姫(演:織本夏帆)との出会いでは、世界の秘密を垣間見る(姫のイベントはヤエルルートでも発生)。

姫は「汀の国の民は、穢れを帯びた大地から生まれてきたという意味で、虚と起源を同じくする。人と虚は元々同種の生命だった」という。「虚」を人の同朋と見なし、穢れと共に生きることが本来の民の姿だと説く姫。彼女の教えに帰依する者たちの姿はこれまでの価値観を揺さぶる存在だった。

さらに、御剣家の次男・真仁(演:遊郭野郎)のある一面が明らかに。血塗れのスチルは非情さを物語る。

 

冥府の戦いでは、与は「虚」の正体を知ることになる(冥府のイベントは全ルート共通発生)。

真実を知った与は「虚」の核となる母体を己の身に封じる。「虚」の核は屍を喰らうことで再誕する。与が生きている限り、「虚」は生まれないはずだった。

しかし、御盾家の当主で按護の父・厳岩(演:沖之正一)が、与と皇族のみが知る「虚」の秘密に疑いを持ち、反旗を翻す。

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「虚」との戦いで子を失った厳岩にとって、「虚」の秘密を独占する皇族は信じるに値する存在ではなくなっていたのである。

「民を欺き兵を犠牲にしてまで守る価値などない、本末転倒な形骸だということだな」

「呪わしい秘密を隠した上でしか成りたてぬこの国の国体など……これ以上維持することに、何ほどの意味がある?」

厳岩の謀反は私情に因るものではない。皇族への疑義故の反逆である。「虚」の秘密を知る皇族が民を欺くから犠牲が生まれる。そのような社会構造を変革したいという厳岩の主張には筋が通っている。

 

そうして、祝賀会の席で与と長流は殺された。与と長流の想いは、皇族を憎む厳岩の前ではあまりに無力だった。与の死後、与の体に封じられていた「虚」は屍を喰らい、与だった人間は「虚」となる。

厳岩は「虚」となった与を滅ぼさんと戦いに挑む。一方、永羽の呪力で蘇った長流は、与を封じる使命を与えられて旅に出る。

 

「虚」を憎む気持ちは同じであったのに、秘密の隠蔽から悲劇に発展した与たちと厳岩。歯痒さと無力さを感じるルートである。

 

 

②ヤエル(演:虎沢猫助)

砂漠の国から派遣された兵士。28歳。優秀だが冷笑的。単独行動を好む。

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異国人故に汀の国の人々と距離を取るヤエル。与はヤエルの呪術の才能に興味を持ち、行動を共にするようになる。「結魂」を望む与に対し、ヤエルは体を繋げることを提案する。

体ではなく、心からの信頼を得るにはどうすればいいのか。任務を通して与とヤエルの間に絆が生まれていく。

 

このルートでは、ヤエルの過去と砂漠の国に帰還しない理由が明かされる。その過去とは、王家の娘がヤエルに懸想したために、娘の父から憎まれたという内容だった。ヤエルの顔の傷は父親から受けた拷問によるものだったのである。故国に帰還したら今度こそ殺されるだろうとヤエルは語る。

 

長流と同じく祝賀会では与とヤエルに悲運が待ち受ける。惨殺されたヤエルのスチルは壮絶の一言に尽きる。

そうしてヤエルは異形と成り果て、与を封じる旅に出る。「虚」と化した与との再会で物語は幕を閉じるのだった。

 

 

③永羽(演:マスカレード木瀬)

皇王の長男。36歳。

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洞窟から按護が救出されたが、彼の意識は戻らなかった。永羽は按護の精神を浮上させるために与を按護の夢の中に導く。

与は按護の夢を通してあの日洞窟の中で何が起きたのかを知る。

 

このルートでは、身分差・年の差がある与と永羽の間に生まれる信頼関係を描く。

美しく高貴な永羽の気さくな一面や国を想う心を知った与は、永羽の「愛する者」になれたことを嬉しく思う。与はいつしか皇族への忠義心からではなく、永羽個人を敬愛するようになっていく。

 

許婚の女性・伊織への想いは切なく、与にもその悲しみは埋められない。永羽の思い出の中の伊織と洞窟にいた伊織の落差が物悲しい。

 

永羽エンドは、長流エンドやヤエルエンドと同様に祝賀会にて厳岩が与を殺害する。今回は息子の按護も参加していた。

祝賀会に参加しなかった永羽は、真仁(永羽ルートでは姫のイベントが発生しないため生存している)によって殺害される。その後、永羽は右目の眼球と肉片のみの存在と化し、与を封じこめる。今生の天子としての役目を全うし、彼は終焉を迎えるのであった。

 

 

④按護(演:七條響)

武家の名家・御盾家の長男。最強と名高い戦士。32歳。

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洞窟から唯一生還した按護。与に導かれて意識が回復した按護だったが、片腕と片足を失っていた。リハビリに励む按護を支える与。やがて二人の間に信頼関係が生まれ、体も繋げるようになる。

按護との濡れ場スチルは、片腕・片足の欠損箇所も克明に描かれており、見てはいけないものを目にしてしまったかのような背徳感を抱かせる。映画『キャタピラー』やだるま女を連想させる按護の肉体は忌まわしい。

 

按護は他の攻略対象とは異なる立ち位置にいるキャラクターである。

祝賀会イベントにて与側につく長流・ヤエルに対し、按護は与を殺害する側である。按護だけが与を裏切るのだ。

「結魂」し、何度も体を繋げて、愛情も芽生えていたはずの与を何故殺害できたのか。与の死後、按護視点で紡がれるルートでは、彼の心情が明かされる。

なぜ暴挙へと走る父を諫めきれなかったのか。なぜ与を殺せという命令に抗いきれなかったのか。

そうするだけの気骨や信念のよすがは、もはや俺にはないものだ。いや、そもそも最初から満足にあったのだろうか。

武家の名門御盾家に生まれた按護は、家の事情によって妻子を失った。その日から、まるで魂に亀裂が刻まれたかの如く、生きてきた按護。

さらに、洞窟の事件で腕と足を欠損し、戦士としての将来も閉ざされてしまう。愛する者を犠牲にしてまで家に尽くしてきた彼は、ついに御盾家の男としての立場も失った。

信念も自尊心も誇りも潰えた彼の心は空虚に蝕まれていく。父・厳岩を止める気力など湧くはずもなく、父に命じられるままに与に手をかけたのだった。

 

「そんな与が――人並みの幸福を一切求めようとしなかった若者が、初めて求めたものが其方との繋がりであったのだ」

与は按護だけを求めていたが、按護自ら与の命を絶ち切ってしまった。按護は悔いることすら許されない。

 

そして、永羽から按護に与えられた使命は、再び与を殺すことだった。

按護は岩肌に磔にされて、呪木の杭に胴を貫かれる。按護が苦しめば苦しむほど、与が按護に惹かれるからだ。按護は慚愧と悲しみに苛まれながら、与の到来を待つのだった。

 

運命は按護を裏切り続ける。あっけなく幸福は手から滑り落ち、肉体は損傷し、ついには罪人となってしまった。

這い上がろうとすればするほど、按護は絶望の沼に沈んでいく。

そんな按護に救いが与えられるのは、最後に解放される隠しシナリオ「それから」だ。与との戦いによって世界は平和になり、按護の名誉は回復した。壮烈な戦死を遂げた按護は「英雄」として神格化されて祀られる。御盾家のために人生を犠牲にし、「御盾家の男」という出自から評価されていた按護は、「按護」という個人の名前を歴史に残すことができたのである。

 

 

本作『Lkyt.』で描かれるのは、国家や家のために尽くして、命を散らしていった者たちの勇姿である。閉鎖的な社会の中で、生きる道を模索し、犠牲になっていく武人たち。死後「英雄」として祀られる彼らが残した想いは後世へ引き継がれていく。夥しい死を乗り越えて、歴史は進むのである。