笑えるか笑えないかはユーザーの倫理観次第
きつい顔つき、高身長、暗く空気の読めない性格。それがマイナス要素となり、子どものときから孤立している橘花絵磨。高校へ進んでもその状況は変わらず、周りからは怖がられ誰も彼女に近付こうとしない。絵磨はその状況に甘んじ、このまま透明な存在として卒業まで過ごせればいいと考えていた。ところが、同級生の平泉巳紀と新條才人が絵磨のファッションモデルとしての才能を見出し、押しかけプロデュースを始めてしまう。
Kalmia8より2016年3月18日発売。
容姿がコンプレックスの主人公がその容姿を生かすことで自信を取り戻す18禁乙女ゲーム。
芸術家やファッションデザイナーに影響を与えるモデル――「ミューズ」。
ある日突然、高校一年生の橘花絵磨(演:海原エレナ)が同級生コンビの「ミューズ」に選ばれる場面から物語は始まる。
「やっと見つけた。君は…君こそが僕のミューズだ!」
「いいか、今のおまえはただの雌豚だ。だが、おまえにも輝ける場所がある。俺が導いてやる」
子どものときから服作りが大好きで、個性的な女の子を輝かせたいと思っているデザイナーの卵、平泉巳紀(演:黒井勇)。
世の中を変えるぐらいでかいことをしたいという野望を持つプロデューサーの卵、新條才人(演:四ツ谷サイダー)。
彼らは絵磨のコンプレックスである容姿に「ミューズ」としての才能を見出した。短所は見方を変えれば長所になる。「ミューズ」である彼女の可能性を引き出し、一流のファッションモデルに仕上げるために、プロデュースを始める同級生コンビ。二人に巻き込まれるかたちで絵磨はモデルを目指し始める。
ダイエットやウォーキング、写真撮影……。絵磨は様々な経験を通して、外見も内面も魅力的な「ミューズ」に変身していく。
新條才人ルートは、内面を鍛えるために接客業に挑戦するストーリー。
そのアルバイト先として選んだのは、男装の女性スタッフが給仕する男装執事喫茶。男性的な容姿が問われる男装喫茶では、絵磨の抜群の高身長は羨望の的で、同僚からは可愛がられ、お客様からは指名されるように。自信を身に付けた絵磨ははっきりとものを言えるようになる。
父親との関係に悩み、デザインした服を破棄すると言い出した巳紀を、
「大丈夫です。私たちについているのはあの才人さんです。仮にお父様が何か仕掛けてきても、あらゆる汚い手を使って守ってくれるに決まってます!」
「才人さんがどれだけ努力してくれたか、巳紀さんが一番わかってるはずですよね?」
と、窘めたり、
態度が煮え切らない才人に対して、
「私のことが好きなら、口だけじゃなくて覚悟と行動を示してくださいよ!今のままじゃ、あなたのこと何も信じられません!!!」
と、訴えたり、ビジネスの現場でもプライベートでも積極的に発言。ビジネスマンである巳紀の父や世界的デザイナーとも堂々と渡り合い、モデルとしても一人の女性としても大きく成長する。
原石だった絵磨が恋と仕事によって研磨されて、宝石へと変身する。テンポの良いテキストで紡がれる絵磨の成長物語は幸せな結末に着地する。
シナリオはコメディタッチ。漫画や映画のパロディーも散見され、物語を盛り上げる。声優の演技はオーバーリアクションで、立ち絵の表情も多彩。ユーザーに楽しんでもらおうとする制作側の努力が窺えた。
その一方、ハンカチ王子のような実在の人物を侮辱して笑いを取ったり、BLやゲイを笑いの種にしたりするのは、いくら遊び心といえども度を越していた。才人がゲイのデザイナー、マイケル・フォースに尻を差し出すことで仕事を取ろうとする場面のように、ゲイを道化に仕立てセクハラ問題を矮小化するギャグは、マイノリティへの配慮に欠けている。デザイナーや美容師等、美に携わる職種に従事している男性キャラクターたちをゲイやオネエとして描く点も偏見に満ちている。
乙女ゲームは男女の恋愛を主眼に置いた媒体だが、男女間の恋愛のみを絶対視し、同性愛を貶める描写は望ましくない。テーマ設定は良かったものの、コメディ部分の倫理観が人を選ぶ作品であった。