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創作物の感想

ゲーム『月ノ光太陽ノ影&-Another Moon-』リパッケージ版感想

狡い女と弱い男

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咲永学園二年生の藤原美希には親が決めた「許婚」がいる。その相手は一学年上の先輩・甲斐聡。美希と甲斐は交際していたが、彼は一年間のイギリス留学へ行ってしまう。取り残された美希は不安と寂しさに揺れ始める。甲斐との関係に悩むうちに、美希は他の男性たちに心惹かれるようになるが……。

アロマリエより2010827日発売。2006年発売の『月ノ光太陽ノ影』と続編『月ノ光太陽ノ影-Another Moon-』の二作同梱版。

現代日本を舞台に、許婚との恋を貫くか、新しい男性との関係を選ぶのか揺れ動く18乙女ゲーム

 

キャッチコピーは「絡み合う禁断の関係、揺れ動く心―大人の貴女に贈る黒い乙女ゲーム」。

攻略対象は、許婚、高校教師、弟(血縁上は従兄弟)、幼馴染み、バイト先の店長。

 

 

プレイ順は、3P→片桐涼子→高見智也→遊佐拓海。

 

 

3P

美希×幼馴染み兼バイトの同僚・智也×バイト先の店長・遊佐。

 

甲斐との関係に悩んで、智也と遊佐に相談するうちに、遊佐に押し倒されて智也に抱かれるルート。3P行為そのものより、高校生でありながら飲み慣れている様子の美希と智也に驚かされる。公式サイトでは「ごく普通の学生」と評されている美希だが、ゲーム本編では日常的に飲酒していたり、すでに性経験があったりと普通から逸脱している。

 

遊佐と智也に抱かれた翌日にバイトを辞めるシーンでは、美希の自己中心性が露呈する。

「……じゃあ、私と一緒に……辞めて」

「それで、もう二度とあの人に会わないで。あのレストランにも行かないで」

美希は智也にもバイトを辞めることを強要する。自身の問題と他者の問題を線引きできず、自分の感情を智也にも押し付けるのだ。

「自分が嫌いだと言った事に相手も嫌いだと同調してくれないと嫌がるんだ」

という遊佐の台詞は至言である。

エンディングでは、ずるずると爛れた関係が継続する。

 

 

②片桐涼子(演:神月あおい)

3Pルートから分岐。美希の友人で同級生の涼子と結ばれるルート。

 

甲斐の婚約解消、智也と拓海の肉体関係。精神的にも肉体的にも疲弊した美希を受け止めてくれたのは友人の涼子だった。男性に対してときめきも信頼も良い感情も抱けなくなった美希は、涼子との人生を選択する。二人は咲永学園を卒業後、同じ学校に進学、同じ企業に就職し、マンションで同居を始める。

直接的な性描写はないが、

綺麗に切りそろえられたその指先を見て、私は俯いて、顔を赤くした。

とあるように、美希と涼子の肉体関係は仄めかされている。美希を傷つけた男性たちと比較すると、美希のために爪を切り揃える涼子の優しさが胸に沁みる。

 

「呼吸するのと一緒みたいに、美希と一緒にいるんだから」

涼子にとって、美希は「酸素」。酸素は普遍的に存在する元素であり、酸素がなければ呼吸はできない。「男はいらない、美希といる今の生活が満たされている」と語る涼子にとって美希は大事な存在だ。

一方で、当の美希は、

涼子は酸素と一緒。……でも涼子がいなくなったからって、死ぬわけじゃないと思う……。

と、別離を示唆する。涼子に対して「私といたんじゃ、恋人も作れないでしょ?私の事遠慮しないで」と告げるように、涼子との関係は一時的なものにすぎず、どちらかに男性のパートナーができたら解消すると考えている節がある。涼子が美希を想う気持ちと、美希が涼子を想う気持ちには温度差があり、埋められない溝がある。

愛されているのに、愛を返せない美希。幸せになれる道が用意されていながら、そこから目を背けているようだ。

 

 

③高見智也(演:春野風)

美希の幼馴染みで同級生。バスケ部員。体育会系。

 

幼馴染みと結ばれるルート。子どもの時から美希に片想いしていた智也は、美希に許婚がいると知ってもなお恋焦がれていた。甲斐との別離で不安に揺れる美希に気持ちを吐露し、

「代わりでもいいんだ!!

「……今いないあいつの、代わりでも良い。…おれの事、あいつだと思い込んでくれて良い!

と、身代わりになって美希を抱く。智也はすでに性経験があったが、初恋である美希への気持ちは一途だった。婚約解消を告げた甲斐を怒鳴るのも、美希を振り回す甲斐を許せないからである。美希はそんな智也の恋情を利用し、甲斐との決着をつける。

 

智也は知性よりも感情に重点が置かれたキャラクターで、駆け落ち未遂など直情的な行動が目立つ。一見すると体格が良く包容力があるタイプだが、その内面は幼稚で無鉄砲な子どもであった。

 

 

④遊佐拓海(演:安芸怜須ケン)

26歳。美希と智也がアルバイトをしているレストランの店長。バーテンダーの仕事もしている。

 

店長の遊佐に恋愛相談をしたことを機に関係が始まるルート。甲斐を信じられずふさぎこむ美希は遊佐の明るさや軽快さに惹かれるように。さらに、遊佐が働いているバー「Kafka」を訪れて、遊佐の人柄や仕事への姿勢に好印象を持つ。しかし、飲酒(!)し、酔い潰れた美希を遊佐が押し倒したことで二人の関係に変化が訪れる。

「君が……オレを信じるのは勝手だけど。……オレは所詮この街の男なんだよ」

「どんなに紳士面して、綺麗に見繕っても……中身はこの朝の白けた歓楽街と同じ。どうしようもない男だ」

娼婦の息子として生まれて、歓楽街で育った遊佐。彼は自身を汚い街と同一だと評し、人を貶め、人に媚びられる事で生きる価値を見出す人間だと語る。カフカの小説『変身』を愛読し、

「何も状況は変わらない。主人公は虫のまま、家族に疎まれて、何も救われないままに死ぬ」

「何も救いが無い。それこそ不条理だよ。……だけど、オレはそれこそ現実じゃないかなって思う」

現実は思い通りにはならず、美しい世界など何処にもない。世の厳しさや冷酷さを知り尽くす遊佐は、他者から裏切られる前に自分から裏切ることで惨めな自分から脱却しようとする。酔った美希を押し倒して関係を持ったのも、美希から拒絶される前に、自らが悪者の立場になることで優位に立とうとしたのではないかと推測される。

若き天才画家である甲斐が「月の絵」を描くのに対し、アマチュア画家である遊佐は「太陽の絵」を描く点は対照的。現役高校生で日の当たる世界にいる甲斐の心象風景は「月」。一方、夜の世界の住人である遊佐は「太陽」を胸に秘めている。美希が憧れた遊佐の明るさや軽快さこそ「太陽」であり、甲斐には持ち得ないものである。

 

続編である『月ノ光太陽ノ影-Another Moon-』は美希が妊娠するエピソード。父親になったことを素直に喜んで、身なりを整えて美希の両親へ挨拶に行く遊佐は地に足の着いた大人である。専門学校在学中に妊娠という設定は褒められないものの、遊佐の魅力は描かれていた。

 

 

本編を全てクリアすると解放される「真実の愛」「真実の愛2」はコメディに振り切ったシナリオ。主人公が背景に同化しているため、主人公の狡い性格が目立つ本編よりも楽しめた。

遊佐「誰がいちばん彼女の妻に相応しいかのデスマッチをしているんだ」

智也「お前みてーな奴には理解できねえ漢の世界だぜ」