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創作物の感想

ゲーム『クローバー図書館の住人たちⅡ』感想

本を愛し、本に愛される

クローバー図書館の住人たちII 通常版

町の片隅にある私設図書館「クローバー図書館」。そこは夜になると本が人の姿をとる不思議な図書館だった。料理本の棗(なつめ)、画集の樒(しきみ)、絵本の莉玖(りく)、専門書の一樹(いつき)、純文学の柊(しゅう)、流行本の葵(あおい)。クローバー図書館の住み込み管理人となった相川千紘は、本たちと協力し試行錯誤しながら図書館を運営していたが……。

アダルトゲームブランドCycの傘下ブランド澪(MIO)より2015年4月24日発売。

現代日本を舞台に、図書館の管理人を務める少女と擬人化した本の恋を描く全年齢乙女ゲーム(PC)。公式ジャンル名は「「本」擬人化女性向け恋愛アドベンチャー」。

 

 

私設図書館「クローバー図書館」。

主人公の相川千紘は高校卒業後、この図書館の住み込み管理人となった。司書資格は有していないものの、図書館員として業務をこなす日々を送っている。

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昼間は静寂に満ちた「クローバー図書館」。

しかし、夜が訪れると、館内は騒がしくなる。

「クローバー図書館」の住人たち―本たちが動き始めるのだ。

 

 

夜になると不思議な力で擬人化する「クローバー図書館」の本は総勢六名。

料理本の棗、画集の樒、絵本の莉玖、専門書の一樹、純文学の柊、流行本の葵。

そのうち『クローバー図書館の住人たちⅡ』で攻略できるのは、料理本、画集、絵本の三名。三名攻略後、グランドエンドが解放される。

 

 

アドベンチャーパートの選択肢は好感度と司書力の二つの要素。

好感度は通常の恋愛ゲームの選択肢。

司書力は「図書館の管理人として、本を扱う仕事に就いた人間として、適切な行動」を選ぶ選択肢である。

例を挙げると、

・読み聞かせの下準備として本を開くための折り目を付ける

・日焼けしないように本を動かす

・読み聞かせの練習で抑え気味に読む

・本の表紙が見えるようにレイアウトする

・地域ゆかりの特集コーナーを作る

・館内を走る子どもがいるのでお願いのポスターを作成する

・付箋の糊が本を傷つけるので、利用者が貼った付箋を外す

・読み聞かせのとき絵しかないページは静かにゆっくり絵を見せる

・料理の本を主題別に配架する

・鉄道をテーマにした展示コーナーを作る。ラインナップに小説本も追加し、コーナーに厚みを作る

・0歳児向けの絵本を読み聞かせに使う

・本の黴臭い匂いを消すために重曹を使う

図書館員として基礎的な知識が取り上げられている。

尺は短いながら、日常業務の描写は細やか。舞台設定が活かされたストーリーとなっている。

 

 

GOODエンドは幸せに満ちた恋愛ストーリー。

各種BADエンドはサイコホラー。いずれも背筋が寒くなる結末で、GOODエンドとの落差に刮目するだろう。

 

プレイ順は、料理本の棗→画集の樒→グランドエンド→幸葉END「繭篭りの花」。

 

 

料理本 棗(演:小西克幸

家庭料理のレシピ本。住人たちをまとめる優しいお兄さん。面倒見が良いが、実は腹黒。

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図書館の財産管理をしている人物が運営資金を使い込んでしまい、閉館の危機に陥った「クローバー図書館」。棗はカフェコーナーを併設し、資金を稼ぐことを提案する。国会図書館を筆頭に、カフェを併設した図書館は珍しい事例ではない。千紘は棗の発案を受けて、カフェの運営に乗り出す。

カフェで提供するレシピを検討する千紘と棗。同じ時間を過ごすうちに二人は惹かれ合う。

GOOD「ふたりのたからもの」では、千紘と棗が作成したレシピノートが擬人化し、赤子が誕生する。

「今、生まれたんだよ。愛の結晶が」

覗きこんでいた棗さんが、嬉しそうに言った。

いつも男らしい眉が、やにさがっている。

棗さんの前髪が、さらりと揺れた。

「俺たちの赤ちゃんだ」

生命維持のための行為である「食」。その「食」の情報を提供する料理本はいわば命の源であり、料理本の擬人化である棗が新たな命を授かるのは自然な帰結であった。

 

BAD「ふたりだけの図書館」は棗の狂気が図書館を侵食する物語。

ブックカフェの計画が中止になっても、お菓子作りを続ける千紘と棗。ある日、千紘は図書館の本が足りないことに気が付く。その日を境に、本が次々となくなっていく。いつの間にか擬人化する本たちも姿を消していた。ついに、本棚は空っぽになってしまう。

何もない部屋で棗は満面の笑みを浮かべている。

「おかえり、千紘。

 きっと、戻ってくると思ってたよ。

 もう逃さない」

 

 

②画集 樒(演:浜田賢二

芸術家の画集。禁帯出の本。マイペースでミステリアス。部屋に引き籠りがち。

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本の帯作りのワークショップを計画した千紘は樒にお手伝いを頼む。ワークショップは好評を得るが、樒の表情は暗い。

 

そんな折、「クローバー図書館」の地下から、少女幸葉(演:末柄理恵)が現れる。幸葉は元々人間だったが、死後本になったという。「クローバー図書館」は、幸葉の生前に彼女の両親が作った図書館だった。

白紙の本の擬人化である幸葉は、沢山の本を読んで、沢山の人生を取り込むことで空白を満たそうとしていた。

 

千紘を本に変えようとする幸葉。しかし、千紘を庇う樒を見た幸葉は気を変える。恋をした樒は変わった。樒はこれからも変わっていくだろう。幸葉は樒の変化を見たいと語る。

「知ってる?樒。変わるということは、人にとって生きるという意味と同義な場合もあるのよ」

 

BAD「真白の毒」は、樒の妄執に千紘が取り込まれる物語。

他の本たちを牽制するようになった樒。千紘をモデルに絵を描くが、キャンバスの中の千紘は現実の千紘とは異なる容姿をしていた。髪は短く、目の色は濃紺。千紘はキャンバスの中の千紘に近付くために、髪を切ってコンタクトを入れる。樒が絵を描く度に、樒の絵に合わせて容姿を変える千紘。やがて、キャンバスに描かれた自分と現実の自分、どちらが本当の自分なのか分からなくなっていく。

(もうそんなこと、どうでもいいかも……

 だって、どっちの私も樒さんが、かわいがってくれるから……)

 

 

③グランドエンド「愛し君のいる景色」

「クローバー図書館」の飼い猫クゥ(演:小堀幸)の正体は化け物であった。クゥは幸葉を利用し、人を本の形の魂にして、その魂を喰いつくそうとしていた。クゥに荒塩をかけて応戦する本たち。しかし、クゥの力は強大だった。

すると、幸葉はクゥを連れて行くという。幸葉はクゥを抱いて昇天する。

化け物と幸葉が去ったことで、「クローバー図書館」の不思議な力は弱まり、これまで図書館の外へ出られなかった禁帯の本たちは自由に外出できるようになった。

 

 

④幸葉END「繭篭りの花」

白紙の本。可憐な容姿をしているが、口調は尊大。

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「じゃあ、読んで。

 ただし、私の前以外で読んではだめよ」

幸葉にせがまれて、小説『ローゼンへの道』を読み聞かせすることになった千紘。

「私、あなたの声の色が、好きみたい……。

 草原を渡る初夏の風の緑に似てるもの……」

と、呟いたのだ。

そう言われたときのなんとも言えない喜びを、どう表現したらいいだろうか……。

『ローゼンへの道』風に言えば、光の帯が渦巻く中へと吸い込まれていった気分、だった。

本を通して、他者と深く結び合う喜びを味わう千紘。図書館の開館をやめた千紘は、幸葉の部屋に入り浸るのだった。

 

千紘と幸葉の共依存エンド。

本を読む悦楽と女性同士の友情が絡み合う。仄暗いエンディングである。