路傍の感想文

創作物の感想

ゲーム『VAMPIRE SWEETIE』感想

「彼女がそれを「初恋」だと認識したその時から、世界が変わりだす─────」

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海の側の、とある静かな町はずれ。ユーリ=エヴァンジェリンは小高い丘の上にある白い壁の別荘で、不在の父親に代わり管理人を務めていた。ある日、父親から招待されたというヴァレンテ四兄弟が別荘を訪れる。男性に免疫がないユーリは気後れするものの、兄弟とすぐに打ち解ける。ルームシェアを始めて数日後。ユーリは兄弟の秘密を知ることになる。

株式会社ウィル(現・ウィルプラス)のブランドシュガービーンズより2012年4月27日発売。『Love☆Drops~みらくる同居物語~』、『Under the Moon』、『いじわるMyMaster』に続く、魔界シリーズ第四弾。

港町の別荘を舞台に、人間の少女と吸血鬼の恋を描く18禁乙女ゲーム。公式ジャンル名は「AVG」。

 

ユーリ=エヴァンジェリン(演:遠見はるか)は港町の別荘の管理人を務める少女。

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ある日、父親から一本の電話が入る。商談相手と話が合い、彼の子どもたちを別荘に招待したとの事。父親の勝手な判断に憤る彼女だったが、新しい住人たちの来訪に期待を寄せた。

現れたのはヴァレンテ四兄弟。

長男ファウスト(演:先割れスプーン)。

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次男ミハイル(演:桜ひろし)。

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三男アロン(演:木島宇太)。

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四男ジョシュア(演:悠輝タクト)。

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男性に免疫がないユーリは気後れするものの、兄弟とすぐに打ち解ける。

 

ある夜、ユーリの目に飛び込んできたのは四男ジョシュアが血を吸う姿。

なんとヴァレンテ四兄弟は魔界四貴族のひとつで火のエレメンツを司る一族のヴァンパイアだった。太陽や十字架、ニンニクなどを恐れない進化したヴァンパイアである彼ら。血を吸うこと以外は、人間と何ら変わりない兄弟たちとのルームシェアの行方は……。

 

プレイ順は、アロン=ヴァレンテ→ジョシュア=ヴァレンテ→ミハイル=ヴァレンテ→ファウスト=ヴァレンテ。

 

 

①アロン=ヴァレンテ(演:木島宇太

吸血鬼兄弟の三男。キッチンに行くと出会える人物。気さくで明るい。

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カップルコンテストに出たり、海で遊んだりするうちに惹かれ合うユーリとアロン。

ある日、ヨットで海に出て帰れなくなった二人。一晩外で過ごすうちに想いが溢れ出した二人は結ばれる。帰宅後もユーリとアロンは仲良く過ごす。

 

そんな二人の様子を苦々しく思う者がいた。吸血鬼の少年アルジャーノン(演:夕凪孝)だ。アルジャーノンはアロンに片思いする姉アンリエッタ(演:青山ゆかり)のためにアロンからユーリを引き離すことを画策。ユーリの目に術をかけて、彼女の視力を奪う。さらに、二十三日後には目を潰すという。

アロンとユーリは術を解くため魔界へ向かう。アルジャーノンが与える試練を乗り越えるアロンだったが、危機的状況に陥る。すると、突如ユーリは「光の姫」に覚醒し、アロンを救う。「光の姫」は全ての魔族を統べる存在であり、アルジャーノンも手出しができない。

「光の姫」となったユーリはアロンと結婚式を挙げてGOODENDとなる。

 

人間のユーリが魔族を統べる「光の姫」になるという驚きの結末を迎えるアロンルート。ユーリは魔族なのか。「光の姫」とは何者なのか。疑問は尽きないが、アロンルートでは解き明かされないまま終了する。

 

 

アロンルートで鮮烈な印象を残したのは、アンリエッタとアルジャーノン姉弟

姉のアンリエッタは、語尾に「ですわ!」とつけるお嬢様口調の少女。魔界四貴族のひとつで風のエレメンツを司る一族のヴァンパイアである。残虐で高慢な彼女だが、初恋のアロンへの想いは一途である。ライバルのユーリに勝負を挑んで、恋する乙女の意地を見せる。

弟のアルジャーノンは姉様一筋の美少年。姉様を応援し、姉のためならば手を汚すことも厭わない。

 

アンリエッタENDはコメディ。

ヨットで海に出ることは断ったものの、ユーリはアロンへの気持ちを自覚し、二人は結ばれる。

アロンに恋人ができたことを聞きつけたアンリエッタとアルジャーノンは別荘に駆けつける。

勢いで、ユーリとアンリエッタは料理対決をすることに。審査員は四兄弟だ。

 

別荘で料理を提供している、いわばプロであるユーリと魔界風の料理しか作れないアンリエッタ。勝負の行方はユーリの圧勝だった。敗れたアンリエッタは「わたくしアロン様が好きなんですもの!!誰がなんと言ったって好きなんですもの!!」と泣きながら、

「貴方達二人が幸せにならないと、このわたくしが許しませんわ!!いいこと!?約束なさい!!」

「相手の幸せを願うのがわたくしのポリシーですもの」

とユーリとアロンを祝福するのだった。

一件落着。

かと思いきや、まだ諦めないアンリエッタは再び別荘を訪れる。

今のアンリエッタの姿はまさしく、海を見つめる波止場の男。彼女の背中に、哀愁、そして孤独を恐れない熱い決意が見えた。

アンリエッタの心意気に感服したユーリは、アンリエッタと手を組んで「至上・極上・最強の料理」を目指すことに。

 

 

②ジョシュア=ヴァレンテ(演:悠輝タクト)

吸血鬼兄弟の四男で末っ子。庭に行くと出会える人物。肩にハムスターを載せている。

人懐っこく甘えん坊。動物と会話ができる。

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ユーリを「お姉ちゃん」と呼ぶジョシュア。二人は共に行動するうちに、惹かれ合い、ピクニックの日についに結ばれる。

すると、吸血鬼の少年アルジャーノンが現れる。

「ボクと遊ぼうよ!」。ジョシュアの友達であるアルジャーノンは、ユーリにジョシュアを取られたことが悔しくて堪らない。

「あいつをどんなに大事にしたって……

 人間だろ。すぐに死んじゃうじゃないか」

「そしたらジョシュアさびしいだろ!

 ボクなら、ずっとずっとジョシュアのそばにいられるんだよ!」

「決めたんだから……

 ボクが、ボクがずっとそばにいるって!」

しかし、アロンの訴えはジョシュアの耳には届かない。

 

その後、ジョシュアの体調が悪化し、手術を受けることに。ユーリが手術前に血をあげると、ジョシュアは回復し、ユーリは「吸血姫」に覚醒する。

二人は人間界に留まり、ジョシュアは動物と会話ができる能力を活かしてペットショップ兼トレーナーになるのだった。

 

 

③ミハイル=ヴァレンテ(演:桜ひろし)

吸血鬼兄弟の次男。庭に行くと出会える人物。眼鏡。

表情をあまり外に出さず、多くを語らない寡黙な性格。

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 真相ルートに当たるシナリオ。

 

極端に人を寄せ付けないミハイルは、ユーリのことも避けている。

「君の声も姿も、私にとっては非常に好ましい。

 好ましすぎて心が乱れる。

 だから不愉快だ、と、そう言っている」

ユーリを好ましく思うからこそ、距離を置くミハイル。ユーリはミハイルの心に踏み入ることができなかった。

 

そんな折、ユーリの前に少女ジュリア(演:遠見はるか)が現れる。死んだはずのジュリアとの再会に心揺さぶられるミハイル。

 

ミハイル曰く、魔界は何百年、何十年かに一度、飽和した「力」を人間界に放出するという。放出された「力」は人間の女の腹に宿り、女性の体で生まれる。その「力」の転生体である女性を「吸血姫」と呼ぶ。「吸血姫」は第二次性徴のころに「力」に覚醒する。「力」の持つ膨大なエネルギーと魔に呑まれて、自我を保ったまま、その魂まで闇に染まった「吸血姫」は魔界に君臨し、「闇の姫」となる。「闇の姫」は、魔界、とりわけ四貴族が最も恐れ、最も手に入れたい存在だ。

一方、「力」を制御できない「吸血姫」は、自我を失い、暴走する。前代の「吸血姫」である少女ジュリアは、「力」に目覚めたものの自我を失い、命を落としてしまった。ジュリアに気持ちを寄せていたミハイルは彼女を助けられなかったことを悔いていた。

今度は救ってみせる。ミハイルたち四兄弟は次代の「吸血姫」であるユーリを守るため人間界に来訪したのだった。

 

ユーリとミハイルの前に現れたジュリアは、前代の抗争で廃されたアンドラス家の嫡男が擬態していたもので、ジュリア本人ではなかった。ミハイルは偽ジュリアを倒し、ユーリは「吸血姫」の中でも珍しい「光の姫」に覚醒する。

魔界でミハイルと結婚したユーリは子どもを授かるのだった。

 

 

謎めいた少女ジュリアの存在が鍵となるミハイルルート。

ジュリアの不気味な言動。恋人を失ったミハイルの苦悩。本作で最も読み応えのあるシナリオである。

 

 

ファウスト=ヴァレンテ(演:先割れスプーン

吸血鬼兄弟の長男。リビングに行くと出会える人物。

何気に弟たちの事を気遣う良いお兄ちゃんの一面も。

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女性慣れしていて、飄々とした大人の男性であるファウスト。永遠の人生をどうせなら楽しく過ごそうという考えの持ち主で、お酒を飲んでは、ユーリにスキンシップを求める。

ユーリは流されるままにファウストに抱かれる。その後、ユーリは魔界に引っ越し、ファウストと結婚するのだった。

 

 

吸血鬼との甘い恋を描く本作は、攻略対象とユーリの恋は勿論のこと、サブキャラクターとの関係も掘り下げた作品である。アンリエッタとアルジャーノン姉弟とのコミカルな応酬は頬を緩ませ、ミハイルとジュリアの失われた恋は涙腺を緩ませる。不器用ながらも距離を縮めていくミハイルとジュリア。二人の過ごした時間は日溜まりのように温かく、やがて訪れる悲劇を際立たせる。

小粒ながら、失われた恋の余韻が胸に染みる佳作である。