路傍の感想文

創作物の感想

ゲーム『黒と金の開かない鍵。』感想

「あなたは私の空間に鍵をかけ、閉じ込める」

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クラスデビューに失敗したため不登校になってしまった片桐奏。ある日、夢の中の不思議な声に誘われ外に飛び出し、髪を切る。こざっぱりとしたことで気分も明るくなり、学校に通い始めることに。

定期試験や学園祭のイベントを通して、周囲と打ち解けた奏。やがて、好きな人もできたが……。

little cheeseより2010年12月4日発売。

現代日本を舞台に、女子高生の初恋を描く18禁乙女ゲーム

 

主人公の片桐奏(演:星咲イリア)は明詠学園二年生。身長155センチ。

緊張しがちで内向的な性格故に不登校に陥ってしまった彼女は、家に引きこもって妄想を巡らすことで、心を守っていた。

ある日、夢の中に現れた謎の男・ヒーローお兄さん(演:村上蒼太)に誘われて外に飛び出した奏は、美容師を名乗る男・蓮井智臣(演:木島宇太)と出会う。蓮井の勧めでぼさぼさの髪を切ってみた奏。すると、こざっぱりとしたことで前向きな気持ちになる。

さらに、中学生のころに奏が思いを寄せていた元同級生・須藤透央(演:先割れスプーン)から声をかけられる。

前向きな気持ちになった奏は、翌日から学校に復帰することに。

須藤や義弟、担任教師に支えられながら、奏は学校生活を乗り越えていく。

 

 

共通ルートは、奏と攻略対象たちの騒々しい日常を描く学園ラブコメ。デートや学園祭などのイベントを通して、奏と攻略対象は親密になっていく。

 

個別ルートに入るのは学園祭終了後。

攻略対象たちは恋人関係になると翳りを見せ始める。

はたして奏は彼らを救えるのか。

「鍵」となるのは奏の言葉。

内向的だった奏が本心を顕にして、言葉を攻略対象にぶつけるとき、彼らの心のドアが開く。

 

 

プレイ順は、蓮井智臣→須藤透央→白木琴子。

 

 

①蓮井智臣(演:木島宇太

謎めいた美容師。身長172センチ。久し振りに外出した奏に声をかけて、髪を切った。結果的に奏の引きこもり脱却のきっかけを作った人物。

 

髪のお手入れのために蓮井の美容院に定期的に通う奏。

蓮井との会話は奏の心を癒やしていく。

思いきって蓮井を学園祭に招待すると、彼は「あなたはどの女性よりも魅力的です。僕はあなたが大好きです」と甘い言葉を囁く。奏は蓮井への想いを募らせる。

 

しかし、蓮井の言動には不可解な点があった。蓮井の美容院には奏以外の客がいないこと。奏はいつでも施術を受けられるのに、奏の弟が予約すると「予約が満員だから」と断られること。街中で蓮井に声をかける者がいたのに無視したこと。

彼が住むホテルのスイートルームを訪れた奏は、ついに蓮井の秘密を知る。

 

かつて人気美容師として名声を得ていた蓮井。華やかな芸能界で活躍していた彼の周囲には大勢の人間が群がるが、彼が創る作品を鑑賞する者はいなかった。

「金の亡者になる者、名声に踊らされる者、そして僕はそれを創り出せば、出すほど有名になった」

すべてを憎悪するような冷たい声。

だけど、その冷たさには紛れもなく彼の思いが含まれている。

憎い、という思いが。

「すると穢れた者が、大勢群がってくる。作品も勝手に僕の忠告を無視して、似合わなくとも飾り立てる」

人間不信に陥った蓮井は、これまで積み上げた実績を放棄し、人間関係も切り捨てた。完璧な作品を作ることが自分の仕事だと結論づけ、己の作品にふさわしい無垢な少女を探す蓮井。そんな折に出会ったのが奏だったのである。

目的を明かした蓮井は奏を縛りつけて人形に仕立て上げる。それでも蓮井を信じたい奏は、鋏でドレスを切り裂いて訴える。

「わかんないんですか……!私は……勝手な幻想かもしれないけど、あなたの魔法に救われたんです!」

気持ちが高ぶり、心を、彼に、直接ぶつける。

「私が好きなのは、綺麗にしてくれるんじゃなくて、元気にしてくれる智臣さんなんです!」

奏の言葉は、蓮井の凍った心を溶かす。蓮井のヘアカットで「幸せ」になったと告白する奏。何百という人の髪をカットしてきた蓮井だったが、「幸せ」という言葉はついぞ耳にしたことがなかった。心を揺さぶられた蓮井はやり直すことを決断する。

蓮井は美容室を再開し、奏以外の客も迎え入れる。

美容室の名前は「クローバー」。花言葉は「幸福な愛」。

 

 

②須藤透央(演:先割れスプーン

乃木平高校二年生。奏の中学時代の同級生で、かつて彼女が思い寄せていた相手。身長168センチ。強引に話を持っていくことが多いが、意外と気が利く。

 

髪を切ったばかりの奏に初めて声をかけたのが須藤だった。奏が引きこもりと知った須藤は、彼女の不安を解消するために、毎朝登校に付き添うことに。日曜日には奏をゲームセンターに連れて行くなど、須藤は奏に外の世界を提示する。

別々の高校に在学している二人だったが、明詠学園と乃木平高校の合同文化祭の開催が決定し、学校内で顔を合わせる機会が増えると、お互いに意識するようになる。ついに須藤が奏に交際を申し込み、二人は正式な恋人になる。

奏にとっては初めての恋。それは須藤も同様であった。遊び人のように振る舞う須藤だが、実はこれまで交際経験は皆無だったのである。

奏――――。

名前を胸で呟くだけで、幸せが溢れてくる。

俺にも、やっと彼女ができた。

「完璧な彼氏」になろうとする須藤。頼れる男になるために強くなりたいと願い、奏の前ではボロを出さないようにする。デートでは、雑誌の記事で得た知識を活かし、先導する。

しかし、須藤が演じる「完璧な彼氏」は虚像であり、やがて綻びが生じてしまう。

「雨降ったから、予定狂って……俺、晴れの行く先しか考えてなくて……わかんねー……彼氏失格だよな」

想定外の降雨により計画が破綻すると、為す術がなく立ち尽くす須藤。彼の知識は所詮付け焼き刃にすぎなかったのである。

 

やがて、奏と関係を持つと、須藤は肉体の快楽に目覚めてしまう。家で、公園で、無理やり奏を犯す須藤。奏を大切にしたいのに、独りよがりのセックスしか行えない。「完璧な彼氏」と現実の自分の行動とのずれに、須藤は苦しみ始める。さらに、須藤の父のリストラ問題が浮上し、須藤は将来の不安から心を閉ざすようになる。奏は須藤のためにキャバクラ(!)でアルバイトをしてお金を渡すが、奏の行動は須藤の自尊心を傷つける。

「やり直せるわけないだろ、格好悪い上に、お前を大切にできない俺なんかが!」

「お前が強くて、カッコイイっていってくれてたのに…、実際はこんなで……」

「お前の前でだけは格好いい俺でいたかった。だから……許せなくて……」

格好悪くても、みっともなくても、そのままの須藤透央が好き。奏がかけた言葉に嗚咽する須藤。これからは二人で苦しいことも辛いことも分かち合っていこう。奏は誓うのだった。

 

 

理想と現実の断絶に苦悩する須藤ルート。

他者との交流は自己を客観視する機会だが、須藤の場合は奏との交際を通して現実の自分を鏡の前に引きずり出され、理想の彼氏像に到達できない現実を突きつけられた。脆弱な己を直視することは苦しみを伴い、自己否定と自尊感情の欠如へと至った。だが、奏が須藤を肯定したことで、須藤は自身を受容(self-acceptance)できたのである。

 

 

③白木琴子(演:星川未流来)

明詠学園二年生。奏の同級生。

 

毒舌家で口が上手い少女・琴子は「告白してきたサッカー部のキャプテンを相撲部のエースにしてしまう」 という伝説を持つ。

カップルを妬むのは、心が醜い証拠」

「それから、タイミングを間違えたら死刑だから、覚えておくがいいよ」

独特の言い回しで、同級生の小峰竜樹(演:石川ゆうすけ)を煙に巻く。

根は優しい少女であり、久し振りに登校した奏を何事もなかったかのように迎える。

 

優秀な頭脳に加え、行動力もある琴子。学園祭の資金不足問題が持ち上がると、前夜祭でチャリティーを実施することを提案。奏と琴子、須藤らの実行委員たちの大奮闘でチャリティーは成功を収める。

さらに、学園祭の出し物「触れあい喫茶」「プラネタリウム」では、琴子の本領が発揮される。

 

琴子との個別イベントが見られるのは、NORMALエンドにて「琴子の鍵」を入手すると解放されるおまけシナリオにて。夢の世界で琴子が奏を誘惑する内容である。