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創作物の感想

ゲーム『memories』感想

「じゃあ、伊生堂万歳だ。お前は、伊生堂でオレを惑わせる」

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両親の海外転勤を機に、聖クラウス学園に転入した樋口由美。初めての事ばかりで戸惑いながらも、友達を作り、前向きに過ごしていた。そんな日々の中で男の子たちとの出会いが待ち受ける。

ショコラティエより2010年4月28日発売。

現代日本の学園を舞台に、女子高生の初恋を描く18禁乙女ゲーム

 

高校二年生の樋口由美は、両親の海外転勤を機に、聖クラウス学園に転入することになった。

新しい環境の中で戸惑いながらも、由愛会(生徒会)の役員である同級生・出水由香利(演:水廉)と仲良くなり、学園生活を満喫する由美。さらに、個性的な男の子と知り合い、初恋を経験する。

攻略対象は、同級生のバンドマン、由愛会の会長、御曹司の先輩、虚弱な後輩、学園長の五名。

 

 

感想ブログやSNS、通販サイトのレビューで低評価を叩き出している本作。

元値7600円(税抜)に対してDL価格500円、ついでに青島刃出演作ということで、怖いもの見たさでDL版を購入。

結論から言えば、低評価も納得の出来である。

テキストは稚拙。

ストーリー展開は突飛。

主人公は視野が狭く幼稚。

攻略対象は非常識。

どこを取っても評価に値しない。強いて挙げるのならば、出演声優の高い演技力だが、それはこの作品をプレイしなくとも分かることである。約11年前に発売された作品という点を差し引いても、褒められる箇所が見出せない。

 

memories。

その名の通り、記憶に残るゲームである。

 

 

プレイ順は、小野瀬敦司→上条隼斗。

 

①小野瀬敦司(演:青島刃)

聖クラウス学園の学園長。穏やかな性格で、年下の学生たちにも丁寧に接する。

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小野瀬ルートは上条隼斗ルートもしくは浅葱樹ルートから分岐するシナリオ。上条や浅葱と関係を持つものの、小野瀬に好意を寄せる物語である。

 

〈上条隼斗ルートから分岐する場合〉

同級生のバンドマン・上条と体の関係を持った由美だったが、翌日の彼の言動は期待からかけ離れていた。下の名前を呼んでほしいと望む由美に対し、上条は「樋口」と声をかけたのだ。由美は不安に襲われる。さらに、由愛会の会長・十津道也(演:先割れスプーン)が由美と上条の交際に反対する。

上条との交際に悩む由美に優しい言葉をかけたのは、学園長の小野瀬だった。学園長室で言葉を交わした由美は、小野瀬に好意を持ち始める。ついには告白するが、「教師としての立場ではその気持ちに答えることは出来ません」と断られる。自省した由美は、高校を卒業するまで小野瀬とは距離を保つことに。数年後、高校を卒業し、生徒と教師の間柄ではなくなった由美と小野瀬は無事に結婚式を挙げるのだった。

 

 

このルートで描かれるのは、主人公・由美の心変わりの早さ。下の名前で呼ばないというだけで上条を嫌悪し、小野瀬に心を傾ける由美は、身勝手で思慮に欠ける。小野瀬は由美が礼節を弁えているところと一緒にいて気持ちが負担にならないところを気に入ったと語るが、甚だ疑問である。

シナリオの整合性も取れておらず、ほぼ面識がない浅葱樹(演:神奈紘飛)や最勝寺嘉隆(演:神凪儚)、嘉隆の妹・莉子(演:マヲ)が由美の部屋を訪れて結婚を祝福するのは不自然な展開である。

 

 

〈浅葱樹ルートから分岐する場合〉

下級生の浅葱樹と交際を始めた由美。彼は遺伝性髄鞘障害を患っており、長くは生きられないという。

そんな折、由美は小野瀬から声をかけられる。

「あまり下を向いていても、そうそう幸せは落ちているものではありません。せめて、顔を上げてお行きなさい」

小野瀬は学園パンフレットに使用する写真の撮影を行っていた。由美は小野瀬と学園内を散策しながら、写真撮影を手伝うことに。聖クラウス学園にはかつて「爆釣部」なる部活があった等、楽しそうに学生時代の思い出を語る小野瀬。

由美が悩みを相談すると、

「後から考えたらなんでもない、ささいなことなのにとても大きな問題に感じたり……」

「逆に、将来に関係してくるような大きな問題をサラっと決めてしまえたり、ある意味神秘的で、とても面白い」

自身も由美と同じように悩む子供だったと語る。

「今となれば、懐かしくて面映ゆい。自分のものであった時は恥ずかしく、ままならなかったものですが」

「大丈夫です。あなたの中にも、きっと解決できるだけの力があります。……元、子供としての一意見です」

あなたならば自分の力で解決できる。答えの提示はしないが、教師として手助けはするという小野瀬。教師として、人生の先輩として頼りになる彼の返答を聞いた由美は、好意を抱き始める。

 

その後の内容は〈上条隼斗ルートから分岐する場合〉と一言一句同じテキストで、上条と浅葱、正反対の男性を経由したにもかかわらず終着点が同一という不可思議な展開を見せる。上条ルートとは異なり浅葱を通して最勝寺兄妹と関わるため、結婚直前の兄妹の訪問は有り得ない事態ではないが、難病の浅葱が涼しい顔で由美の結婚を祝福するのは奇妙と言わざるを得ない。

 

 

②上条隼斗(演:佐藤タカオ)

聖クラウス学園二年生。由美の同級生。バンド活動をしている。

由愛会会長の十津道也とは犬猿の仲。

 

商業ゲームとしての質が問われるルート。『memories』の真髄が味わえるシナリオとなっている。

 

個別ルート序盤、由美と二人きりでカラオケを楽しむ上条。

だが、突如何者かに話しかける。

テキスト「メロディが楽だったからな。いい歌だと思うぜ。」

音声(メロディが楽だったからな。いい歌だと思うぜ。……これメロディーの方がいいですか?)

上条、いや上条を演じる佐藤タカオさんがスタッフに質問している。収録の際のNG音声なのは火を見るより明白で、今後の先行きが不安になる。

 

 

恋の歌が苦手な上条は、由美との出会いを機に作詞ができたという。

「1st Chance 突然の稲妻」

「オレを惑わすこの娘は ダレ?

 この手を すり抜けていく瞬間

 このままもう 会えないと思っていた」

「2nd Chance 嬉しい誤算」

「目の前で眩しく笑うのは キミ

 まさか 二度目があるなんて

 運命なんて言葉 信じてみたくなった あの日」

如何とも形容し難い歌詞である。だが、上条本人は出来に納得した様子。バンドの練習用スタジオにて由美に告白すると、そのまま関係を持つ。バンドマンとしてあるまじき行動なのは言うまでもない。

 

翌日。下の名前を呼んでほしいと望む由美に対し、上条は「樋口」と名字で呼びかける。上条の態度に嘆き悲しむ由美。さらに、追い打ちをかけるように、由愛会の会長・十津道也が二人の交際を反対する。十津は妹を捨てた軽薄な男と上条を重ね合わせていた。余計なお世話である。

由美は上条を執拗に追いかけ回し、彼の本心を聞き出す。上条が下の名前を呼ばないのは「恥ずかしいから」であった。聞かなくとも、容易に推測できる理由である。その程度の心情を鑑みずに付き纏う由美は、想像力に欠け、迷惑極まりない。だが、上条本人は気に入ったらしく、二人の交際は継続する。十津も上条を許す。

 

その後、上条のバンドは人気を博す。音楽には張り合えないと実感する由美。

ところが、公私混同した上条は、ライブ会場で由美を指差し、叫ぶ。

「顔を上げろ!耳を澄ませろ!オレは今、お前のためにここに居るんだ!」

「――この曲は、なによりも一番大事な、お前のために歌うんだ!」

上条が披露するのは由美のための歌。満員のライブ会場で、その特別な意味を知るのは二人だけである。血と汗を流してチケットを手に入れたファンに囲まれながら、由美は幸福と優越感を感じるのだった。

 

ライブにて観客よりも私情を優先する上条。そんな上条の行動を咎めるどころか、感激する由美。プロ意識に欠けた彼らの行動に呆れ返るばかりである。

 

 

BADエンドは、交際を秘密にする結末。

上条から下の名前で呼ばれない由美だが、「彼が嫌がるから」と我慢する。友人の由香利だけが二人の交際を知っていた。

上条は由美の体を求めるが、由美自身の心を見ようとはしない。セックス中も、

「そっか……この香りが、オレをそそるんだぜ。シャンプーも、伊生堂か?」

「じゃあ、伊生堂万歳だ。お前は、伊生堂でオレを惑わせる」

と、目の前の由美から目を逸らし、伊生堂製ボディーソープとシャンプーを褒め称える。上条が欲しいのは、恋人ではなく、良い匂いの肉体である。

彼の携帯には「由香利」の文字が浮かんでいた。

 

由美と由香利に二股をかける上条。GOODエンドよりは現実に即した結末だが、濡れ場における「伊生堂」連呼は珍妙である。上条の気持ちが由美自身に向いていないことを表現したいのだとしても、突拍子もない台詞回しである。

 

 

奇怪で珍奇。

本作『memories』を形容するならば、これ以上に相応しい単語はないだろう。浮世離れしたテキスト。論理的思考が欠如した登場人物。プレイヤーの理解を阻まんと立ち塞がるシナリオ。ついてこられる者だけがプレイすればいい。そのような気概すら感じさせる。

青島刃目当てプレイヤーとしてはここで終わりとするが、我こそはと思う挑戦者は是非お試しあれ。