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ゲーム『星の王女2』感想

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二年前に家族を失った立花未来は、大学生活とアルバイトを両立させながら、最愛の家族を亡くした痛みを少しずつ乗り越えようとしていた。懸命に生きる彼女に、サッカー選手になる夢を叶えた幼馴染み、亡き兄の主治医、影のある大学教授との出会いが待ち受ける。

美蕾より2004年2月29日発売。『星の王女』の続編。

前作から二年後を舞台に、女子大生の恋を描く18禁乙女ゲーム

 

兄の和希(演:紫花薫)を亡くした二年後。女子大生の立花未来は、大学の友人たちとの騒がしい日常を送る中、悲しみを少しずつ乗り越えようとしていた。ある日、海外のサッカーリーグで活躍する幼馴染みが帰国する。さらに、亡き兄の主治医と再会する。

彼らとの交流を機に、未来の交友関係は広がるが……。

 

 

攻略対象は、亡兄の立花和希、幼馴染みのサッカー選手田中康平(演:霜月亮平)、大学教授の里見修二(演:富士爆発)、医師の相馬隼人(演:成田剣)、同級生の堂本広(演:沖野靖夫)、ホストのアルバイトをしている同級生の篠原達也(演:多恵忍)、後輩の木村望(演:紫原遥)、桜塚歌劇団花組のトップスター月影葵(演:原田ひとみ)の計八名。

 

 

プレイ順は、相馬隼人→月影葵。

 

 

①相馬隼人(演:成田剣

31歳。身長182センチ、体重68キログラム。

末期癌で死亡した兄の主治医。大病院を辞職し、現在は美容整形外科の個人病院に勤務している。

 

公園の桜の木の下で再会した相馬と未来。その日以来、二人は桜の木を訪れては言葉を交わす。相馬は抑うつ状態にあり、儚げな雰囲気を纏っていた。大病院で死亡する患者を見送ってきた経験が、相馬の精神を疲弊させていたのである。現在の勤務先である美容整形外科の患者たちに手を出しているものの、彼の心は一向に満たされなかった。

 

ある日、未来の幼馴染みのサッカー選手、田中康平が発病する。その難病を治療できるのは相馬ただ一人だった。未来は相馬に手術を頼み込む。一旦断るものの、未来の必死の頼みに折れた相馬は執刀する。田中は無事に治癒し、未来は相馬に感謝の念を抱く。未来に感情を揺り動かされた相馬も彼女に好意を持ち、二人は恋人関係になる。

恋人になって束の間。突然、未来の精神は過去世にタイムスリップしてしまう。

 

時は戦国。場所は丹波の国、八上城。城主にして相馬家当主の相馬秀春(演:成田剣)が未来の夫であった。

病弱な秀春は、命が尽きる前に、秀春の母によって排斥された異母弟千早丸(演:霜月亮平)との再会を望んでいた。妻の未来が忍び(演:原田ひとみ)に捜索を命じると、数日後、千早丸の所在が判明する。病身の体を押して秀春は山奥に暮らす千早丸に会いに行くが、再会した千早丸は秀春の謝罪を拒否する。千早丸は母と姉と自身を苦しめた相馬家を憎悪していた。

 

そんな折、敵方の明智光希(演:富士爆発)から書状が届き、秀春と明智は対面する。「お互いに人質を出して和睦の証としたい」と和睦を提案する明智に対し、秀春は自身が人質になると言う。

秀春の決意を知った千早丸は激怒する。城主の秀春が不在になったら誰が相馬の領地を守るのか。

千早丸「そんなに簡単に諦められたんじゃ…俺らの人生まで否定された気持ちになるんだよ!」

千早丸は単身乗り込んで、領民と兄を守るために人質になると訴える。明智の主君である織田信司(演:紅大君)は、千早丸の心意気を汲んで、「相馬秀春」としての死を命じる。

信司「不遇の時を過ごしてきたにも拘らず家族や領民の事を思ってつく嘘に騙されてやろうではないか!」

信司「感謝するが良い。名誉ある切腹を申し付けてやる!」

「相馬秀春」の名を背負って、千早丸は切腹。弟の死を知った秀春もまもなくこの世を去る。

 

秀春の死を見届けて、現代へ帰還した未来。

現代の未来の体は昏睡状態に陥っていた。体は動かせないが、幽体離脱はできるため、幽体のみで移動していたある日、未来は少女さくら(演:美咲ゆうか)と出会う。隼人と面識がある彼女は幽体の未来を知覚できる能力を持っていた。桜の木の下で、少女さくらを介して未来と隼人は同じ時間を過ごす。

ある日、突如自身の過去世を思い出した隼人は、相馬家当主の相馬秀春の菩提を訪れる。すると、未来の意識は体へ戻って、昏睡状態から目覚める。無事に再会を果たした隼人と未来。しかし、少女さくらは姿を消していた。

 

数年後。

家庭を築いた隼人と未来は公園を訪れる。

未来は桜の木を見上げている娘に呼び掛ける。

「さくら」と……。

 

 

大学生の日常を描く現世から戦国時代の過去世、過去世から霊体となる現世へ。

物語の舞台が二転三転する隼人ルート。

戦国時代のエピソードの主眼は、秀春と千早丸の兄弟の対立と命を賭して領地を守る武家の誇りにあるが、現代においてそのようなテーマを俎上に載せることは一切なく、過去世と現世が相互に影響を及ぼす描写も見受けられない。投げ槍な医者と病弱な城主の対比はあるものの、現代の恋愛劇に戦国時代のエピソードをあえて挿入した制作側の意図は不明である。

個別ルート後半、戦国時代から現代へ戻ると、さらに物語は混迷を極める。タイムスリップを除いては、超常現象を排していた本作だが、突然主人公が幽体離脱をするのである。その上、異形の存在である少女さくらが登場する。戦国時代とは一切関わりがない彼女の正体は不明。桜の木に宿る神様、隼人と未来の子どもなど、様々な可能性が考え得るが、劇中では未解決である。

 

 

②月影葵(演:原田ひとみ

27歳。身長169センチ、体重48キログラム。

桜塚歌劇団花組のトップスター。男役として、女性が憧れる究極の男性像を目指している。

2009年発売の『すみれの蕾』に登場する女性攻略対象、淳ヒカリのプロトタイプとなったキャラクター。

 

穏やかな性格、華やかな容姿、洗練された身のこなしと完璧な月影葵は、スターの称号に足る人物。花屋のアルバイトをしている未来は、定期的に葵の楽屋に花を配達している。

実は、葵がまだ無名だったころから応援している古参ファンの未来。葵が着用する洋服を制作し、トップ就任祝いに自作のペンダントを贈るなど、献身的に尽くしていた。葵は長年のファンである未来を信頼し、配達で顔を合わせる度に、気さくに話し掛ける。スターとファンの間柄ながら、未来は葵に親しみを覚え始める。

だが、未来がファンクラブに加入しようとすると、葵は強硬に反対する。「私にとってあなたはただのファンじゃない」。未来は妹のような存在だからと説明する葵。その真意は…。

 

ある日、葵から「土曜日に二人でドライブに行かないか」と誘われた未来。当日、迎えに来た葵はスマートに未来をエスコートする。

葵「レディをお待たせするなんて、私の流儀に反するからね」

ドライブを楽しむ未来と葵。やがて、葵の運転する自動車は海岸へ向かい、下車して夕暮れの海辺を散歩することに。海に沈む夕日を眺めながら、二人は会話を重ねる。

 

葵はトップスターになるまでの道のりを語り始める。

東北で生まれ育った葵は四人姉弟の三女。生来おとなしい性格で、学校でも家でも目立たない存在であった。誰からも注目されず、ひっそりと生きていくのだろう。諦念に囚われていた地味な少女の人生を一変させたのは、高校の修学旅行で見学した桜塚歌劇団の舞台だった。華やかな舞台に憧れて、バレエ未経験ながら試しに桜塚歌劇団音楽学校を受験すると、思いがけず合格。

突然注目される存在へと駆け上がった葵。期待に応えるように、音楽学校入学後、声楽とバレエの個人レッスンに通い詰め、研鑽を積んだ。周囲に追いつき、追い抜くために努力を重ねて苦節数年。やっとトップの座を手に入れた。

 

未来は自身の生い立ちを明かす。孤児院で育ち、立花家に引き取られたが、二年前に養父母と義兄が死亡し、現在は天涯孤独であること。普段は明るく振る舞っているが、一人は寂しいこと。葵は悲しみと孤独に打ちひしがれる未来を抱きしめる。

 

ドライブから数日後。

「新作の本読みの稽古に付き合ってほしい」と頼まれた未来は、葵の自宅マンションを訪れる。

新作のタイトルは『黒薔薇のくちづけ』。人間のヒロインの「アンネローゼ」とヴァンパイアの「ベルンハルト」の悲恋を描く物語である。未来は女性役の「アンネローゼ」、葵は男性役の「ベルンハルト」を担当し、稽古を始める。

葵「私とともに、永遠の時間を生きよう。2人でいくつもの春を眺め、いくつもの秋を渡ろう」

葵「自分の気持ちに素直になるんだ、アンネローゼ。キミの幸せは、私と共に生きることにある」

朗々と演じる葵。だが、ふいに声音を変える。

葵「愛しているよ。心から、愛している」

本心からの愛を告げる台詞は、「ベルンハルト」ではなく、「月影葵」としての言葉だった。

無名時代から支えてくれた未来に好意を抱いていたものの、彼女の邪魔にならないように恋心に蓋をしていた葵。しかし、祝福されないヴァンパイアと人間の恋愛劇を演じているうちに、役柄と自身が同一化し、役の台詞に己の感情に載せてしまったのである。

葵「私も、あなたと一緒なら、どんなことでも乗り越えていけそうな気がする」

葵「絶対に後悔させないから。私を信じて、ついてきて」

秘めていた恋心を告白し、「一緒に生きよう」と問い掛ける葵。未来は彼女の手を取る。

未来「私も、葵さんに『未来を選んで良かった』って思ってもらえるように、頑張ります」

 

 

隼人ルートとは異なり、タイムスリップも超常現象も発生しない現実に根差した展開で描く百合ルート。

歌劇団の男役と服飾の腕前がある主人公の組み合わせは、同ブランドより発売された『すみれの蕾』の淳ヒカリに酷似しているが、二組のカップルの結末は対照的である。『すみれの蕾』では、主人公サツキはヒカリのために歌劇団の衣装部を退職する。一方、『星の王女2』では、主人公の未来はアルバイトを継続する。類似した設定を用いながら、その方向性は真逆である。