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創作物の感想

ゲーム『あやかしごはん』犬嶌詠ルート感想

 

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父親を亡くし、母子家庭で育った朱音凛。その母親も亡くなり、独り身になった凛の前に、父方の祖母の知人で妖狐の狐森吟が現れた。吟の家に引き取られた凛は、あやかしと人間が共存する紅葉村で暮らし始めるが……。

honeybeeより2014年8月29日発売。

現代日本の山村を舞台に、人間の少女とあやかしたちの恋を描く全年齢乙女ゲーム(PC)。公式ジャンル名は「ごはんがおいしくなる恋愛ADV」。

 

 

主人公の朱音凛(演:友永朱音)は、早くに父を亡くし、放任主義の母親に育てられた少女。

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7歳の夏、凛は紅葉村にある父方の祖母の朱音スミ(演:珠木のぞみ)の家に預けられた。スミと彼女の養子である狐森吟(演:緑川光)が暮らすその村はあやかしと人間が共存する場所であり、吟の正体も妖狐であった。

 

それから数年後。

母親を亡くし、独り身になった凛の前に、吟が現れる。彼は養父として凛を引き取りたいと言う。厚意に甘えて吟の申し出を受けることを決めた凛は、紅葉村に引っ越し、吟と彼の息子の綴(演:村瀬歩)、双子の狛犬らと暮らし始める。さらに、狛犬たちと共に地元の薄ノ高校に転入し、学園生活を謳歌する傍ら、吟が経営するごはん処「ぽんぽこりん」の手伝いも始めるが……。

 

 

攻略対象は、双子の狛犬の犬嶌謡(演:下野紘)と犬嶌詠(演:梶裕貴)、同級生の伊吹萩之介(演:水島大宙)、猫又の花蘇芳(演:杉山紀彰)、商店の息子の芹ヶ野真夏(演:興津和幸)、桜の精の木邑浅葱(演:石田彰)の計六名。

 

 

犬嶌詠ルートは、「人間とあやかし」「里と山」の対立を軸にした異類婚姻譚

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詠は謡の双子の弟。身長175センチ。

 

冷静沈着だが、頑なに他者を撥ねつける詠。

活発で明るい性格の凛は、積極的に詠に話し掛ける。学校と「ぽんぽこりん」で同じ時間を過ごす間に、二人は徐々に距離を縮めていく。

 

 

慌ただしく年が明けた元日。

紅葉村一体の山を治める山神の一族である天狗の紅蓮(演:黒田崇矢)が山から降りて来た。

紅蓮「決めたぞ!娘よ、お前をこの紅蓮の嫁にしてやろう」

古来人間を嫁に取り子孫を残してきた天狗たち。紅葉村においては、「数十年に一度、天狗が人間の女子を嫁として里へ連れ帰り、嫁を得た代償として山を豊かにする」という「天狗の嫁取り」が行われていた。紅蓮自身も天狗と人間の女性の間に生まれた半妖であり、しきたりに従って人間の凛を嫁に迎えたいとの意向を示していた。

 

断る凛だったが、享楽的で傲慢な紅蓮は耳を貸さない。拒絶されればされるほど支配欲が煽られるのか、

紅蓮「待っていろ。妻に迎えて欲しいと、お前の方から縋らせてやる」

紅蓮「俺は必ずお前を手に入れてみせる――!」

度々里に現れては強引な手段で凛を攫おうとする。人間側のあやかしである詠と吟が牽制するが、紅蓮は諦めなかった。

 

 

二月。

ついに、紅蓮は紅葉村の七人の女性を拐かす。凛は紅蓮と交渉し、「一日に一人ずつ、女性を村に返してもらうこと」「一週間後に全員を返したのを見届けたら、紅蓮の元へ行くこと」を約束させる。

凛の悲壮な決意を知った詠は紅蓮と戦うが、狛犬の詠の力では歯が立たない。

紅蓮「……良い表情だ。お前の泣き顔は、なかなかそそるな」

 

ところが、詠を庇う凛を目の当たりにした紅蓮は、

紅蓮「そいつを嫁にするのはだめだ。そんなにこの女が良いと言うなら、貴様にくれてやる」

紅蓮「ここまで別の男に惚れている女、手に入れたところでつまらん。完全に俺の物には出来そうもない」

と、凛を嫁にする気持ちが失せてしまい、山へ戻ってしまった。

 

 

 

GOODEND「泡沫に沈む幸福」

正式に交際を始めた凛と詠。

すると、紅蓮が「ぽんぽこりん」に顔を見せる。ご飯を食べるために来店したという紅蓮は、凛と詠の交際を応援している様子。凛たちは紅蓮と和解する。

 

 

衝突を経て、良好な関係を築くエンディング。

天狗の伝統に基づいて行動を起こしていた紅蓮は、結果的には凛たちに迷惑をかけたものの、悪意や敵意を向けていたわけではない。人間とは異なる文化圏で育ったあやかし故に、凛との認識のずれが生じたのである。言葉は通じるのに、相手の主張が理解できない。凛が覚えた戸惑いは、紅蓮も同様であっただろう。凛が辛抱強く抵抗した結果、紅蓮は人間側の事情に理解を示したが、それは山神である天狗を里の人間の論理の中に組み込む行為であり、自然を人の管理下に飼い馴らす過程でもある。

 

 

 

BESTEND「夢、現、象り描く恋蛍」

凛と詠が交際を始めてからしばらく経過した、三月九日。

二人は紅葉村にある桜の大木を訪れた。

そのとき、詠は自身が死者であることを自覚する。

詠「俺はもう……ずっと前に死んでいたんだ……」

 

 

「すでに死んでいた」事実に気付く場面で終了するエンディング。

おそらく共通ルート序盤にて発生した土砂災害で死亡したものと考えられるが、唐突な幕切れである。