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創作物の感想

ゲーム『ピオフィオーレの晩鐘』感想

 マフィアのボスが二十代

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第一次世界大戦直後の南イタリア、ブルローネ。この街を支配するのは、ブルローネマフィアと呼ばれる三つの組織だった。ブルローネの教会で静かに暮らす少女リリアーナ・アドルナートは、とある事件をきっかけにマフィアの屋敷へ身を寄せるが……。

オトメイトより2018年8月30日発売。

教会育ちの少女とマフィアの男性たちの恋を描く全年齢乙女ゲームPSVita)。CEROレーティングはD(セクシャル、犯罪)。公式ジャンル名は「女性向け恋愛ADV」。

 

 

舞台は20世紀初頭の南イタリアアドリア海に面した交易都市ブルローネは古くからマフィアに支配されていた歴史を持つ街である。現在のブルローネにおいて、ブルローネマフィアと呼ばれるのはファルツォーネ、ヴィスコンティ、老鼠の三つの組織だった。

伝統と格式を重んじるファルツォーネファミリー。

革新的なヴィスコンティ一家。

華僑の集団、老鼠。

三組織が謀略を巡らす中、ブルローネは表向き均衡を保っていた。

 

ブルローネ教会で育ったリリアーナ・アドルナートは、マフィアとは無縁な少女。

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自身の家族のことや生い立ちについての一切を知らずに育った彼女は、生まれながらに「鍵の乙女」という役割を担っていた。その秘密を巡って、ブルローネマフィアの抗争に巻き込まれることになる。

 

 

プレイ順は、ダンテ・ファルツォーネ→ニコラ・フランチェスカ→楊→ギルバート・レッドフォード。

 

 

①ダンテ・ファルツォーネ(演:石川界人

ファルツォーネファミリーのカポ。23歳。

ファミリーの正統な後継者として英才教育を受けた青年。クールで一見冷たい印象を与えるが、懐に入れた人間に対しては情が深く面倒見が良い。

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ダンテの家に保護されるルート。

ファルツオーネファミリーの仕事は聖遺物の守護。「鍵の乙女」とファルツオーネの後継者が結ばれると奇跡の力を手に入れることができるという。ダンテは「鍵の乙女」であるリリアーナを守るうちに彼女に惹かれていく。

BESTENDでは、奇跡の力でダンテの傷を癒やしたリリアーナは彼と結婚する。

 

 

②ニコラ・フランチェスカ(演:木村良平

ファルツォーネファミリーのNo.2。28歳。ダンテの従兄弟。

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ダンテに忠義立てするニコラに翻弄されるルート。

ある日、ニコラはリリアーナを盾にファルツオーネファミリーを離脱してヴィスコンティ一家に移籍すると主張し始める。さらに、ニコラがダンテを殺害してボスの地位を簒奪するのではないかという噂が流布する。ダンテとヴィスコンティ一家のボス、ギルバートは会合し、彼の噂を払拭するために策を練るが……。

実は、ニコラの移籍宣言はダンテのためを思っての言葉であった。ニコラはファルツォーネファミリーの血で縛られたダンテを自由の身にさせたかったのである。ニコラの思惑を知ったダンテは裏切りを赦し、ニコラはファルツオーネファミリーに復帰するのだった。

 

 

ダンテ本人は頼んでもいないのに「ダンテを自由の身にさせたい」という一心で動くニコラ。時にはリリアーナすら蔑ろにしてダンテのために行動する。ニコラのダンテへの服従と献身は、男性中心の集団内で構築されるホモソーシャルに近似している。ニコラとダンテの強固な繋がりの前には女性のリリアーナは立ち尽くすしかない。リリアーナは「ニコラの恋人」になることはできても、「ダンテより大事な人」にはなれないのだろう。

 

 

③楊(演:岡本信彦

「老鼠」の首領。29歳。華僑。一時的な快楽を追求する刹那主義。

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楊と体の関係になることで「鍵の乙女」の役割を喪失するルート。

リリアーナと結ばれた楊はダンテとニコラを倒し、イタリアを制圧する。

 

 

チャイニーズマフィアと言えば『オメルタ』の劉を連想するのだが、まさしく劉のような男性である。気まぐれで残虐で冷酷。リリアーナに向ける感情も「恋」や「愛」と言い表せるものなのかは判断できない。

 

 

④ギルバート・レッドフォード(演:森久保祥太郎

ヴィスコンティ一家のボス。26歳。派手好きで自信家。

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ギルバートにかけられた嫌疑を払拭するルート。

最近ブルローネでは偽札が流通していた。その偽札の犯人としてギルバートの名が挙げられる。ファルツォーネファミリー、ヴィスコンティ一家、老鼠は協力関係を結んで、偽札事件の真相を暴く。

 

 

 

マフィアを主役に据えた本作。

マフィアが登場する女性向けゲームと言えば、BLゲーム『オメルタ』『ラッキードッグ1』『Si-Nis-Kanto』。上述の三作と比較すると、本作『ピオフィオーレの晩鐘』のマフィアたちは年齢的にも精神的にも若い集団である。私情で動き、敵対組織にも積極的に手を貸す。暴力は控え目で、ヒロインに対しては優しく接する。優れた戦闘能力を持ちながらも情に絆されがちで、簡単に足元を掬われそうな危うさを秘めている。事実、自ルート以外ではあっさり死亡するキャラクターもいて、若さ故の行動力と浅慮が目立つ。

シナリオは華やかな恋愛シチュエーションに尺を割く一方、メインストーリーの掘り下げが不足している。抗争の場面も少なく、他社のゲームと比べると、残酷な描写や流血の描写は抑えられている。硝煙と血飛沫が舞うマフィア抗争劇を期待してプレイすると、肩透かしの感が拭えない作品である。