路傍の感想文

創作物の感想

ゲーム『臨海合宿』感想

夏休み直前に転校した真田直登。クラスに馴染めないまま合宿行事が始まるが、初日からトラブルが続き、ついには事件に巻き込まれてしまう。

有限会社スケアクロウのブランドβ-pinkより20071026日発売。

MERRY BOYSから発売された『修業旅行~古都迷走地図~』の姉妹作。

千葉県館山市良浜に伝わるメラ星(アルゴ座のカノ―プス)の民話を下敷きに、男子高校生たちが白骨遺体の謎に挑む18BLゲーム。

 

 

一学期終盤に、ひとつ年上の従兄弟「しょーちゃん」(演:天乃空)が在学する高校に転入した真田直登(演:伊東隼人)は、同級生たちと打ち解けないまま、三泊四日の臨海合宿行事に参加することになった。

 

彼らが宿泊する漁村には、海の低い場所に紅い星が揺らめいて昇るとき、北西風に乗って、死んだ漁師の霊が仲間を連れに来るというメラ星伝説が語り継がれていた。死んだときに体を失っているから、霊は村に降り立つとき、生きている人間の似姿を取る。亡霊は、その姿に似た人間を探し、見つけたら、二度と見失わないように、その人間に印をつける。村人たちは印がついた人間を人柱として霊に捧げるという。学級委員長の太田昭次郎(演:瓶野良夢音)は、村長からその言い伝えを教えられていた。

 

その夜、肝試しに海蝕洞を訪れた真田たちは、洞窟内にて白骨化した遺体を掘り当てる。その遺体は「S.N」のイニシャルが書かれた体育着を着ていた。

翌日、真田の手首には赤い痣が浮かび上がった。さらに、遠泳の最中に、何者かに足を引っ張られ、溺れかける。

ついには、真田に瓜二つの人物が漁村にいたという目撃情報まで齎される。

 

はたして真田の身に降りかかる厄災は、メラ星伝説に依るものなのか。

真田たちは真相解明に乗り出すが……。

 

 

攻略対象は、幼馴染みで同級生の加持壱之(演:どてら4号)、「~なのだよ!」が口癖の同級生太田昭次郎(演:瓶野良夢音)、嫌味ばかり口にする同級生の真柴薫(演:川梛珱)、水泳指導員の大学生霧原裕也(演:古河徹人)、医師の武岡晴信(演:青島刃)の計五名。全キャラクターに別軸リバあり。

加えて、武岡を除く四ルートには、真田の従兄弟たちが登場する合宿エンドが用意されている。

 

 

プレイ順は、真柴薫→武岡晴信。

 

 

①真柴薫(演:川梛珱)

同級生。美少年だが、口が悪い。

 

転校初日から真田を敵対視する真柴。心当たりがない真田は、敵愾心を向けてくる真柴を敬遠していた。

 

合宿初日、真柴の甘言につられて、子どもだけで勝手に船に乗った男子生徒たち。すると、突如船が動き出し、沖に出てしまう。力を合わせて港まで戻ることができたが、陸で彼らを待ち受けていたのは厳しい表情の教師たちだった。真柴は「ボクが最初に乗りました」と自白し、彼のみが教師に連行されそうになる。真柴だけが責任を取るのはおかしいと考えた真田は「誘われたからではなく、自分から乗った」と教師に訴えた。真田の発言を皮切りに、関与した男子生徒たちが次々に声を上げ、反省の意思を見せたことで、全員の合宿の継続が認められた。

メラ星伝説を調べるために二人きりで行動をしていた折、真柴は上述の件の際に「真田に励まされた」と本音を明かした。珍しく素直な物言いの真柴に、真田は意外な気持ちになった。

 

漁村に住む老婆の家を訪れた真田たちは、村長にメラ星伝説を口伝したのは、その老女であることを突き止める。彼女の語るメラ星伝承は、村内にある西春法師入定塚で出会った老人から聞かされた逸話とは異なる内容であった。入定塚の老人の話では、塚に生きたまま入った法師が、海難を予告するために、死後メラ星になったという。老婆が嘘をついているのか、老人が出鱈目を口にしたのか、判断しかねる状況であった。

 

調査を通して、ほんの少し距離を縮めた真田と真柴は、合宿三日目の夜の行事を楽しく過ごした。

ところが、その夜、真田と真柴は村長の車に無理やり乗せられ、老婆の家に連れて行かれてしまう。

老婆は「法師さまは悪い子にだけしるしをつける」「悪い子は生贄にする」と、二人を打ち据える。老婆と村長は、痣がある真田と真柴を悪童と認識し、メラ星に奉る人柱にするべく、誘拐を決行したのである。

かつて夫から暴行を受けていた老婆は、暴力とは一種の愛情表現であると刷り込まれていた。彼女は子どもたちに躾けという名の折檻を行うようになり、村長を含む一部の村人たちは、手に負えない我が子を老婆に差し出し、躾けてもらっていた。老婆は近年の漁獲高の減退を「悪い子が増えたから、それを迎えにメラ星が来た。メラ星の来訪により、不漁になった」と解し、増々子どもへの暴力を加速させ、迷信を盲信する村人たちは老婆の行動を咎めるどころか容認した。閉鎖的な漁村において、素行不良な若者の更生と豊漁を希う老婆の切なる想いが膨れ上がったとき、彼女の前に真田というイレギュラーな存在が顔を見せた。その結果、引き起こされたのが、今回の誘拐事件だったのである。

 

老婆の中には善性と悪性が同居していたわけだが、人の心のように、メラ星にも善と悪の二面性がある。

救出された真田と真柴は、武岡から二つの伝説を教えられた。

ひとつは、海が荒れることを事前に教えてくれることから「漁師を守る善」としての面。これが西春法師の伝承である。

もうひとつは、メラ星が現れると海が荒れることから「漁師を海へと誘う悪」としての面。これがメラ星の伝説である。

同じ事象であっても、それを瑞兆と見て雀躍するのか、凶兆と捉えて慄然とするのかは、観測者の解釈に委ねられるのだ。

 

 

合宿エンド

白骨が発見された海蝕洞を再び訪れた真田と真柴は、真田の従兄弟とその友人たちに遭遇する。

実は、骨を埋めた犯人は先輩である彼ら。二年前の臨海合宿の際に、肝試し用に骨格標本を埋めたのを、今になって掘り返しに来たのだという。何たるお騒がせな……と、怒る真田だった。

また、真柴が真田を嫌悪していた理由も判明する。キーパーソンは、従兄弟と一緒にいる、長髪の先輩。中学入学直後、女子の先輩の告白を断ったために学校中からいじめられた真柴を助けてくれたのが、この長髪の先輩だった。先輩は廊下や校庭や、他に誰かいるときでも構わずに、気さくに話し掛け、休み時間も暇があれば真柴に付き合ってくれた。先輩に傾倒した真柴は、彼の後を追って同じ高校に入学した。ところが、その先輩は修業旅行から帰って来てからは、旅行で同じ班だったメンバーとつるむようになり、昔のように真柴を構ってくれなくなってしまった。その先輩ととりわけ仲が良いのが真田の従兄弟であり、真柴は憎むべき従兄弟に面差しがよく似ている真田に怒りのやり場を向けていたのである。

 

説明するまでもなく、真田の従兄弟「しょーちゃん」は『修業旅行~古都迷走地図~』の主人公、長髪の先輩は同作の攻略対象のひとりを指す。長髪の先輩の人柄が伝わるエピソードである。

 

 

②武岡晴信(演:青島刃)

三十代後半。医師。村内にある武岡医院の院長。

黒いサングラスをかけたスーツの男、宇佐美謙治(演:ルネッサンス山田)と常に行動を共にしている。

 

真田たちが白骨遺体を発見した際に、近くの磯場にいた武岡と宇佐美。

真相解明のために単身で武岡医院に乗り込んだ真田は、武岡に連れられて西春法師の入定塚を訪れる。西春法師は行きたまま塚に入り、死んだ後メラ星になったと伝えられていた。地元の老人は、「亡くなった漁師の霊が仲間を連れに来る」という伝説はあるが、「その幽霊が誰かにそっくりであるとか、しるしをつけるとか、生贄を差し出す」類の言い伝えはないと語る。おそらくメラ星がよく見える季節は時化が多く、遭難する確率が高いことから、そのような伝説が生まれたのではないかと仮説を挙げた老人は、洞窟内に祠を建てることもないと断言した。

洞窟内から出た白骨遺体の正体は、近隣の廃校になった小学校から紛失した骨格標本であり、すでに警察が元の場所に戻していた。

武岡は、泥酔し悪戯気分で母校から骨格標本を盗んで洞窟内に埋めた学生から、どうにかしてほしいと泣きつかれたので、宇佐美と共に標本を掘り出しに来たのだという。

合宿所に戻った真田は、迷惑をかけた同級生たちに謝罪し、和解した。

 

合宿三日目の夜。

夜の行事を楽しむ真田の元に、刑事たちが訪ねてくる。刑事たちによると、骨は骨格標本ではなく数年前に紛失した身元不明死体の骨であり、その遺体の鑑定を担当していたのが武岡医師であるという。明日話を聞きたいと刑事たちは一旦帰るが、真田は武岡に疑念を抱き、真意を確かめるべく、単身で再び武岡医院へ向かう。

 

武岡は元々大学の法医学教室に所属し、個人病院を開業した現在は警察の嘱託医を務めていた。一緒に行動をしている宇佐美は刑事であり、清掃業者を装って方々の病院に出入りして遺体を盗んでいた臓器密売グループを逮捕するため、武岡と宇佐美は芝居を打っていたのである。真田の痣は、骨についていた薬剤に触れたことで肌が変色し、痣のように見えていただけにすぎなかった。

 

 

武岡が真田に嘘をついていたのは、真田の身を守るためであった。

武岡「おまえを危険な目に遭わせたくなかった」

武岡「ガキのころから怖いもん知らずで向こう見ずなお前のことだ。

   下手に手伝わせたりしたら何しでかすかわからん」

幼少期の真田を知っているかのような口振りの武岡の様子に、真田は識閾下の記憶を蘇らせる。かつて真田はこの村に滞在し、隣家の武岡に懐いていたのだ。

 

翌朝、宇佐美の車で武岡邸を訪れた真田は、武岡と結ばれるのだった。