路傍の感想文

創作物の感想

BLゲーム簡易感想 2

記憶の整理も兼ねて触れてきたゲームをプレイ順に振り返ってみました。

個人的な思い出が主、ネタバレやネガティブな事項も書いておりますので、ご注意ください。

 

 

 

No.11『紅色天井艶妖綺譚』新装版(LoveDelivery)2011年

f:id:bodensee:20220110212256j:plain

2008年に発売された同名ゲームの新装版。江戸時代を舞台に、半妖の藍丸(演:上河創)が妖刀事件の謎を解くミステリゲーム。主人公総受け。

 

主人公の藍丸は鯔背な若者。朗らかな気性の彼は人脈も広く、周囲はいつも騒がしい。攻略対象の桜螺(演:丈隆志)とのやり取りは漫才のように諧謔に満ちています。

そんな明るい作風の本作に染みを落とすのは、「友人の死を契機に、攻略対象と肉体関係になる」展開。一人の男の死は主人公と攻略対象の恋を動機づけるための装置となり、藍丸の表情は翳りを帯びます。賑やかな共通ルートとの落差に目が眩みます。

 

 

No.12『絶対服従命令』(郎猫儿)2005年

f:id:bodensee:20200328104732j:plain

bodensee.hatenadiary.jp

終戦後のドイツを舞台に、二名の軍人がターゲットを堕としていくW主人公制ゲーム。主人公総攻め。ただしBADでは受けに回ります。

 

攻略対象は十二名と大所帯ですが、攻略できる順番が定められており、自由性が乏しいのが特徴。怪盗のシルヴィオ・ヴェンゼル(演:酒井勇)と医師のハーゲン・ハーラー(演:黒澤優)のルートが好きでした。

 

 

No.13『学園Prince~学園征服宣言~』(Boy’s Software)2004年

f:id:bodensee:20220110213511j:plain

東に『PLEASURE☆』があれば、西に『学園Prince』あり。『PLEASURE☆』(愛称「裸バスケ」)に肩を並べる実力を持ちながら、遥かに知名度が劣る迷作。

「理事長の悪事を暴くために学園に侵入した主人公が、同じ志を持つ仲間と出会い、理事長を倒す」という粗筋を肉付けするのは怒涛の下ネタ。登場人物は攻略対象からモブキャラクターまで漏れ無く規範意識が欠如し、台詞も行動も奇想天外です。登場人物たちが「異常」なのか、彼らをおかしいと感じる私が「異常」なのか。「正気」と「狂気」の境目が溶けていくシナリオに頭が痛くなってきます。

すでにブランド解散、公式サイトも消滅しているため、どのような意図で制作されたのか皆目見当がつかないのですが、尋常ならざるセンスを持ったスタッフがいたのであろうことは想像に難くありません。

 

主演は鉄仮面さん。攻略対象を演じるのは野蔀由輝さん、緑川光さん、三木眞一郎さん、伊藤健太郎さん、松野太紀さん、万栗太郎さん、松濤エルサさん、脇を固めるのは黒田崇矢さん、間寺司さん、吉野裕行さん、山口勝平さん、と豪華キャスト。ちなみに、黒田さんは受け役を担当されています。

 

 

No.14『Paradise』(PIL/SLASH)2017年

f:id:bodensee:20200328095948j:plain

クローズド・サークルを舞台にしたサスペンスゲーム。

気楽な気持ちで参加した無人島六日間のキャンプは、外界との連絡手段が失われた瞬間、地獄のサバイバルと化す。食糧不足が懸念される中、参加者からはついに犠牲者が。恐怖に怯える者、焦燥に駆られる者、リーダーシップを発揮する者……。極限状態だからこそ炙り出る人間の本性。問われるのは尊厳と正義。

 

主人公たちが訪れた無人島は、煩わしい俗世間から隔絶され、草木が繁茂する「Paradise」。

同時に、「彼」の目を通すと、其処は弟アベルを殺害した兄カインが流れ着いたノドの地でもありました。

 

 

No.15『ラッキードッグ1』(Tennenouji)2009年

f:id:bodensee:20220110221808j:plain

禁酒法時代のアメリカを舞台に、マフィア組織「CR:5」の幹部たちの脱獄と抗争を描く18禁同人BLゲーム。主人公総受け。

 

イヴァン・フィオーレ(演:平井達矢)とルキーノ・グレゴレッティ(演:四季路)ルートのみプレイしました。予備知識なく始めたのですが、ルキーノがまさかの妻子を失った男性攻略対象で、おじさん攻め好きとしては望外の喜びでした。

オメルタ』と同じくマフィアものということで、比較する点も多く、そういった面では参考になりました。

 

 

No.16『贄の町』(√ZOMBILiCA)2018年

f:id:bodensee:20220110221957j:plain

彼岸と此岸の間で生きる意味を見つける物語。主人公総受け。共通ルートはマップ式、個別ルートは通常の紙芝居となります。

本作の攻略対象の一人(ネタバレのため名前は挙げません)は、BLゲーム界の中で最も悲惨な生い立ちのキャラクターと言えるでしょう。性暴力の被害者は数多入れども、彼ほどの後遺症を負った人物はいないのではないでしょうか。

 

 

No.17『鬼畜眼鏡』(Spray)2007年

f:id:bodensee:20210105074649j:plain

bodensee.hatenadiary.jp

BLゲーム界の古典にして、乙女ゲーム『魔性眼鏡』(PIL-VAMP、2016年)の元ネタ。『魔性眼鏡』への波及を確認するためにプレイしました。

 

後年のBLゲームに影響を与えた本作。なかでも『神様(仮)路地裏繚乱編』(easy-peasy、2013年)の天満倖春(演:桜ひろし)は、『鬼畜眼鏡』の五十嵐太一(演:大石けいぞう)のオマージュと断言できるでしょう。単純な模倣に留まらず、独自の設定を加えて差別化が図られていますが、『神様(仮)路地裏繚乱編』好きとしては嬉しい発見でした。

 

 

No.18『ラブミーテンダー~今宵、Barアルバで~』(VividColor)2008年

f:id:bodensee:20220110221420j:plain

38歳のピアニストが47歳の今カレと44歳の元カレの間で揺れるロマンスゲーム。

「歳を重ねた男たちの恋」の惹句に釣られて購入したのですが、大人と呼ぶにはあまりにも主人公の橘幸彦(演:中原茂)が未熟でした。人の心の機微に疎く、都合の悪い状況になるとその場から逃亡する、鈍感で無責任な大人です。攻略対象も「ビジネスを有利に進めるために女性と政略結婚をしたが、本当に愛しているのは男性の方だ」と人間性を疑うような発言をする人物で、全く以て共感も応援もできないカップルでした。

 

 

No.19『花町物語』(VividColor)2005年

f:id:bodensee:20201230104157j:plain

bodensee.hatenadiary.jp

遊郭シリーズ第一弾。陰間茶屋を舞台に、新人陰間の朱璃(演:緑川光)と周囲を取り巻く男性たちの恋を描く。主人公総受け、一部ルートに同軸リバあり。

 

良くも悪くもショタ主人公の声の癖が強く、このボイスを受け入れられるか否かが評価の鍵。個人的には苦手なタイプだったのですが、攻略対象の梶山啓治(演:富士爆発)の低音ボイスとは釣り合いが取れていました。梶山の筋肉美にも惚れ惚れ。

ダークホースは、成田剣演じる各務征士郎。欺瞞と虚飾が剥がれ落ちた先に広がるのは空虚な部屋でした。

 

 

No.20『花陰~堕ちた蜜華~』(VividColor)2009年

f:id:bodensee:20201204185248j:plain

遊郭シリーズ第二弾。『花町物語』の数年後が舞台。朱璃の後輩にあたる陰間、伊織(演:大石けいぞう)が主人公。主人公総受け。

小泉八雲を模した攻略対象、ヒュー・グレン(演:平井達矢)の言動が可笑しみを誘います。

 

全ルート通して最も印象深い場面は、共通ルートのヒューと獅子尾豪(演:犬野忠輔)の散策シーン。お雇い外国人とヤクザの凸凹コンビのやり取りが楽しい。

ヒュー×豪の組み合わせがあれば……とがっかりしていたら、ドラマCD『陽炎』にて主人公が「ヒューと豪が付き合っているかも」と勘違いするエピソードが描かれていました。是非実現してほしいものです。

 

 

No.21『MESSIAH』(CORE-DUSK)2006年

f:id:bodensee:20210718230612j:plain

孤独な吸血鬼が救世主(メサイア)を求める物語。

吸血鬼役の黒瀬鷹さんは後年『オメガヴァンパイア』(花梨シャノアールオメガ、2016年)でも吸血鬼を演じられました。この二人の吸血鬼は、性格は真逆ですが、行動は似ています。通底しているのは深い哀しみ。絶望を切り拓く血路となったのは、他者への情愛の念でした。

 

 

No.22『FANATICA〜ファナティカ〜』(CORE)2004年

f:id:bodensee:20220110221056j:plain

豪華客船を舞台に、現代からタイムスリップした医師、記憶喪失の少年、華僑の青年らが繰り広げる、片思いの連鎖。

「リーウェン様、この霜波の言葉を一つだけ……このことだけ覚えておいて下さい。生きてゆくと云うことは……何かを選ぶことです」

報われぬ恋情を描く本作を代表する名台詞です。

「ずっと貴方の側に」エンドの霜波(演:ヘルシー太郎)の告白は鳥肌が立ちました。

 

ただし、システムは複雑かつ面倒。通常の選択肢は存在せず、ジャッジポイントにて蝶または蜘蛛のアイコンをクリックすることでルートが分岐するのですが、テキストに集中していると、度々アイコンを見逃します。何度か挑戦しているのですが、あるルートが解放できません。そのためフルコンプリートも不可能となっています。

 

 

No.23『Laughter Land』(郎猫儿)2006年

f:id:bodensee:20210719072440j:plain

異界に召喚された主人公が、世界の秘密に迫るミステリゲーム。一部ルートにて同軸リバあり。

攻略対象は用意されていますが、恋を選ぶと真実への扉は閉ざされます。恋愛にまつわる選択肢を回避し、謎解きに注力すると、真相ルートが解放されます。

 

キーパーソンとなるのは女性キャラクター。終盤における、妊娠と出産を繰り返す彼女の暴走は、カタストロフィというよりも悪趣味の域です。

世界の崩壊後、男性キャラクターたちに救済が与えられますが、彼女は姿を見せません。シナリオを進行させるための駒の役目を課せられながらも、物語が終焉を迎えると用済みとばかりに捨てられて、再生する機会は与えられないのです。この女性キャラクターの処置の問題は、本作のライターがシナリオを担当した『神無ノ鳥』(すたじおみりす team L←→R、2002年)でも共通しています。

 

 

No.24『スクエアな関係~ぼくらの恋愛心理学3~』(アイン)2007年

f:id:bodensee:20200328102602j:plain

bodensee.hatenadiary.jp

日常の中で恋が生まれる作品。別軸リバあり。

蒼井悟(演:平井達矢)×小早川龍司(演:青島刃)ルートについては長々書いたので、今回は西田勇人(演:皇帝)×岸本高水(演:空乃太陽)ルートについて。

 

私は暴力を振るう加害者(=攻め)キャラクターが好きなのですが、その人物の本質は暴行後の態度に現れます。情欲の嵐が吹き荒れた後に一抹の後悔を見せる男は、僅かに良心が残存しており、話し合いの余地があります。GOODエンドルートへの方向転換も可能です。また、自身の行動を「悪」であると認識しつつ目的遂行のために暴力を振るう男は信念に殉じる剛直な者ですので、事件解決後は受けに優しくなります。他人をいたぶることを好む嗜虐趣味の男は厄介ですが、往々にして頭脳は優れているので、意思の疎通が取れます。一方、自己の記憶に蓋をし、事態をなかったことにする男*1は、手に負えません。適切な治療が必要です。

 

西田×岸本ルートの西田は、自己嫌悪に陥るタイプ。悔やんでも悔やみきれずに涙を流します。怒りの矛先を向けるべき相手は自分自身。自分から逃げることはできません。その苦痛と悲嘆が西田の精神を蝕みます。

尺は短いものの、加害者の心情に寄り添ったシナリオは読み応えがありました。

 

 

No.25『臨海合宿』(β-pink)2007年

f:id:bodensee:20200328102851j:plain

bodensee.hatenadiary.jp

『修業旅行~古都迷走地図~』の主人公の従兄弟、真田直登(演:伊東隼人)を主役に据え、ひと夏の冒険を描くミステリゲーム。別軸リバあり。『修業旅行~古都迷走地図~』と同じく、ルートによって真相が変化します。

真柴薫(演:川梛珱)ルートでは、あのキャラクターの参戦に驚かされました。優れた人格者は巷間に潜むのかもしれません。

 

 

No.26『神学校-Noli me tangere-』(PIL/SLASH)2011年

f:id:bodensee:20200328102454j:plain

一家惨殺事件を背景に、神の姿を見失った少年が再び信仰を取り戻すまでの過程を描くミステリゲーム。別軸リバあり。

人間本性の脆弱性と不純正を突きつけるシナリオは深い感興を喚起します。

 

唯一の難点は、作品の根底に流れるルッキズム。醜悪な容貌の校長は内面も低俗で、肥満体型の学生はガリ勉と謗られる。メインキャラクターとサブキャラクターの顔面格差は凄まじく、美形でなければ表舞台に立てません。

 

 

No.27『帝国千戦記 ツインパック』(郎猫儿)2007年

f:id:bodensee:20220110232129j:plain

三国時代をモデルにした架空中華戦記。黄巾賊ならぬ「青軍」が主人公。

 

紙芝居ゲームではなく、マップ上を移動し、各地を転戦する戦闘シミュレーションゲームです。戦闘が難しいためフルコンプリートはできませんでしたが、妻子を失った倭人×匈奴の若者の挿話が好きでした。

 

 

No.28『invisible sign-イス-』(lapin)2005年

f:id:bodensee:20211210072251j:plain

bodensee.hatenadiary.jp

高校を舞台にした全年齢ミステリゲーム。

 

常々鳥海浩輔さんのはまり役は「満たされぬ愛を眼前にして未練がましく怨嗟を唱える男」*2であると考えていたのですが、本作の和久井遼はまさに鳥海さんの声に適したキャラクターでした。好きなのに素直になれず、相手の気を引く術も知らない男子高校生の敵対的な態度、ツンデレな様子を上手い塩梅で表現されています。

 

 

No.29『魔法使いと天使と悪魔~Two Choices of destiny~』(Varenyett)2018年

f:id:bodensee:20200327142517j:plain

bodensee.hatenadiary.jp

西洋風異界を舞台に、天使と悪魔の愛を獲得する物語。主人公総受け。

神に従順な天使よりも、自己決定権を有する悪魔でありたいと思わせるシナリオでした。

 

 

No.30『Lkyt.』(parade.)2020年

f:id:bodensee:20200829213915j:plain

同ブランドの一作目『NO,THANK YOU!!!』(2013年)は、全ルート通して「異邦人が居るべき場所に帰還する物語」でした。2020年に発売された三作目『Lkyt.』は、全てのルートが「共同体の存続のために自己の命を犠牲にする物語」。誰を選んでも終点は同一です。

ブランドの方針ですのでとやかくは言えませんが、金太郎飴は否めません。



 

 

*1:『花町物語』の各務征士郎

*2:セイント・ビースト』の陽炎のシヴァ、『紅色天井艶妖綺譚 二藍』の七絡