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創作物の感想

ゲーム『ハルカナコイ』感想

「これは現実(リアル)を生きる女性(あなた)のための物語」

学生時代の失敗が原因で、恋に臆病な桜井晴花。ドラマのような恋に憧れる彼女に、三人の男性との出会いが訪れる。

SOIRより2017年3月31 日発売。

現代日本を舞台に、会社員の恋を描く18禁乙女ゲーム。公式ジャンル名は「大人の女性のためのイチャイチャ恋愛ADV」。

 

 

舞台は東京・池袋。

主人公の桜井晴花(演:未知果咲)は事務職の会社員。TVドラマ『御曹司の恋』が好きな普通の女性だ。

学生時代の失恋が原因で、新たな恋に踏み出せない晴花。

そんなある日、同僚兼親友の中瀬志織(演:陽野アリア)に誘われて、ビアバー「Lecker」の扉を開く。そのときから、晴花の前に魅力的な男性たちが現れ始める。

 

待ち受けるのは「ドラマのような恋」と「ドラマのようには上手くいかない恋」。

最後に晴花が選ぶ男性とは……。

 

 

攻略対象は、元恋人の久世悠人(演:ジャックライヤー)、バーのマスター犀川拓臣(演:佐和真中)、幼馴染みの武内陽太(演:沖田かずひろ)の計三名。全員漏れ無く、結婚を「入籍」と表現する前時代的な男性たちである。

また、攻略対象の一人である久世は、犀川拓臣ルート及び武内陽太ルートでは、晴花の友人女性の中瀬と結ばれる。

 

プレイ順は、久世悠人→犀川拓臣→武内陽太→犀川拓臣隠しルート。

 

 

①久世悠人(演:ジャックライヤー)

晴花の学生時代の恋人。会社員。眼鏡をかけている。

実家は会社を経営しており、いずれ久世も会社を引き継ぐ予定。

趣味は映画鑑賞。晴花の同僚である中瀬志織とは、SNSのフォロワー同士。

 

 

久し振りに再会した晴花と久世の復縁を描くルート。

GOODENDは二種類用意されているが、最も希望に満ちているエンディングは、夢の実現に向けて奮闘している中瀬に感化された晴花が仕事に邁進し、人事部に異動するGOODEND2。自らの力で人生を切り開く晴花の成長が描かれる結末である。

 

BADENDは、晴花の同僚兼親友である中瀬が、晴花から久世を掠め取るエンディング。同じ映画好きである中瀬と久世は、頻繁にSNSでやり取りをしており、久世の心が中瀬に傾くのに時間はかからなかったのである。

 

 

犀川拓臣(演:佐和真中)

ビアバー「Lecker」のマスター。

温厚で聞き上手だが、他人とは一定の距離を保つ。

 

 

犀川と交際を始めた晴花。

ある日、晴花は電話越しの犀川の声が『御曹司の恋』の主演男優の声に似ていることに気が付く。それを犀川に指摘すると、彼は動揺を見せる。実は、犀川と『御曹司の恋』の主演男優は従兄弟の関係であり、犀川は成功者である従兄弟を妬んでいたのである。

「どんなに頑張っても、俺はあいつにはなれない。

 あいつがいる限り、俺自身を見てくれる人間なんていないんじゃないかって、そう思えてきて」

「これで分かったろ?俺は君が思っているような、大人の男でもなんでもない。

 こんなウジウジした男とは、さっさと別れた方がいい」

惨めな内面を露呈させた犀川は、自嘲気味に吐き捨てながら、破局を告げる。

一方的に関係を断ち切ろうとしている犀川の態度に、晴花は怒りを爆発させる。

「『イヤな所を見せたら離れていく』って、いい所だけ見せたいから、そう思うんでしょう?

 拓臣さんは、私のイヤな所も見たくないのよ」

晴花の言葉に心を動かされた犀川。虚飾の自分ではなく、ありのままの自分を受け入れてくれる晴花に惚れ直すのだった。

 

従兄弟に恥じない自分になるために、犀川は「Lecker」を退職し、自らのお店を持つことに決める。だが、そのためにはスイーツの開発が必須だった。

晴花は行きつけの洋菓子店「メルベイユ」の生駒店長の協力を仰ぐ。快く引き受けてくれた生駒店長を伴って晴花が犀川の元を訪れると、なんと生駒店長と犀川は元同僚だった。さらに、驚くべきことに、数年前に晴花がよく訪れていたレストランにて、スイーツを主に手掛けていたのは犀川であったことが判明。偶然に次ぐ偶然の連鎖により、スイーツは無事完成し、レストランの開業に漕ぎ着ける。

レストランの開店パーティーには、部下だった陽太や久世と中瀬のカップルも招待されるのだった。

 

 

③武内陽太(演:沖田かずひろ)

ビアバー「Lecker」のアルバイト。晴花の幼馴染み。

中学二年生のときに母を病気で亡くし、母の代わりに祖母に孝行したいと考えている。

 

 

学生時代振りに再会した晴花と陽太。

順調に交際を進める二人だったが、やがて陽太はフリーターの身の上を恥じ入るようになる。

 

店長を務める犀川

エリアマネージャーに昇進した久世。

二人と比較すると、非正規雇用の陽太には収入も安定性もなかった。

 

悩む陽太に対し、晴花は「将来がどうかなんて関係ない。一緒に笑い合える。それだけいいじゃない」「先のことが不安なら一緒に考えよう」と声を掛ける。「ちゃんと働いているなら正社員でなくてもいい」という考えの持ち主である晴花からすれば、仕事をしているだけでも陽太は立派なのである。

のちに二人は結婚した。

 

GOODENDは、結婚から五年後の二人を描く。

産休・育休を経て、晴花は仕事を続けていた。

久世と中瀬は結婚し、犀川のレストランにて挙式を挙げるのだった。

 

 

犀川拓臣隠しルート

久世悠人ルートから分岐。

 

中瀬に久世を略奪された晴花。

傷心の晴花は、「Lecker」に来店し、甘言に乗せられるまま、犀川に抱かれてしまう。

 

犀川は別荘地への旅行を提案。

休暇を取った晴花は別荘地へ赴き、犀川の知人である左知代がオーナーを務めるペンションに暫く滞在することになった。

犀川から「必要以上に外に出てはならない」と釘を打たれる晴花だったが、ある日、他の旅行客と接触したことで、別荘地の秘密を知る。この別荘地にあるペンションは全て娼館であり、犀川と晴花以外の男性たちは全員娼館の客、女性たちは売春婦だったのである。

 

裏の顔を突き止められた犀川

真実を知られた以上、晴花にも売春を強要するのかと思いきや、彼は何も手を講じなかった。

どうやら、売春をさせるために晴花を連れて来たのではなく、純粋に旅行を楽しむためにこの土地を選んだらしい(知人が経営するペンションだから宿泊代が安かったのだろうか?)。

 

晴花の身を案じた陽太がペンションを訪ねてくるものの、犀川は冷たく陽太を追い返す。

まもなく、陽太の水死体が湖から発見された。自殺か事故か、はたまた事件なのか。死の経緯は不明であった(犀川が犯人ではないことは確定している)。

土左衛門の陽太を目にした晴花は、精神的衝撃により幼児退行してしまう。

心が幼児に戻った晴花の介護を続けながら、犀川は罪の意識に苛まれるのであった。

 

悪人でもなければさりとて善人でもない、中途半端な犀川の弱さが描かれるルートである。