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創作物の感想

ゲーム『熱砂ノ楽園』感想

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英国の製薬会社に勤めるウィル・リードは会社の命により、シャムス王国の王族に代々伝わる不老長寿の秘薬「パシャフの実」の調査を始めた。王国を訪れた早々、ウィルを待っていたのは人攫いや義賊「赤い鷹」。ウィルは追っ手から逃れ、王宮のハレムに辿り着くが……。

VividColorより2010年8月27日発売。

砂漠の王国のハレムを舞台に、異邦人と王族の恋を描く18禁BLゲーム。

 

英国人(祖母は日本人)のウィル・リード(演:夕凪孝)は製薬会社の会社員、21歳。

会社の命令を受けて、王族に代々伝わる不老長寿の秘薬「パシャフの実」の調査をするためにシャムス王国に降り立ったウィルだったが、早々に賊に誘拐されてしまう。無理やり青紫の実を口に入れられたウィルを助けたのは義賊「赤い鷹」を名乗る男。

再び意識を失ったウィルは、目が覚めると王宮のハレムにいた。

ハレムの支配者はシャムス王国の二人の王子、アシュラフとハキム。王子の従者であるカリムはウィルに夜伽を命じるが……。

 

プレイ順は、ハキム・ルシュディ→アシュラフ・ルシュディ→カリム・ラシード。

 

 

①ハキム・ルシュディ(演:桜ひろし)

21歳。シャムス王国第二王子。第一后妃(貴族階級出身)の子。

 

強引にハキムに抱かれたウィル。その後もハレムに囚われる日々が続くが、意外にも快活で親しみやすいハキムにウィルは惹かれていく。ハキムが振る舞うホブズに舌鼓を打ち、お気に入りのオアシスに遊びに行く。ハレムの滞在を満喫するウィル。

 

やがてウィルは自ずと王族の秘薬である「パシャフの実」の秘密に接近する。

「パシャフの実」は万能薬。熟した実を食べると、不老長寿や若返りの効果がある。

熟していない青紫の実を食べると、性衝動が高まり、身体から人を惑わす香りが発せられる。その香りを嗅いだ人間も性衝動が制御できなくなり、代償として寿命が縮む。拐われたウィルが食べさせられた実こそ熟する前の「パシャフの実」であり、ハキムはウィルを助けるために無理やり抱いたという。

 

ハキムの優しさを知って後ろめたくなったウィルは、第三后妃の弟ザイード・ジブラン(演:鳩マン軍曹)の誘いに乗って、ハレムを脱出する。だが、ザイードの目的はウィルから「パシャフの実」の管理者の名前を聞き出すことにあった。ハキムを裏切りたくないウィルが拒否すると、ザイードはウィルを襲う。

そのとき、義賊「赤い鷹」が颯爽と登場し、ウィルを助ける。「赤い鷹」の正体は何を隠そうハキムだった。ハキムは「赤い鷹」であること、ウィルは「パシャフの実」の調査をしていたこと、お互いの隠し事を打ち明けた二人は和解する。

 

そののち、シャムス国王が死亡し、アシュラフが即位。何やらアシュラフはカリムと親しげな様子である。

一方、自由の身となったハキムとウィルは海外旅行に旅立つのだった。

 

 

②アシュラフ・ルシュディ(演:高嶺悠賀)  

シャムス王国第一王子。第二后妃(平民出身)の子。

 

シュラフに抱かれたウィル。アシュラフは熟する前の「パシャフの実」を食し、刹那の快楽に溺れていた。「パシャフの実」に依存するアシュラフと関係を続ける中、ウィルは優美で自堕落で享楽的な第一王子から目が離せなくなる。

「早くこの命が終わってくれないかって、ずっと昔から思っていた。それこそ物心ついた頃からね」

気安く接してくれるが、内面に誰も寄せ付けようとしないアシュラフ。他者を冷徹に拒絶する心の奥底には、幼少期のトラウマが巣食っていた。

 

シュラフの母である第二后妃は、国王が平等に第一后妃と第二后妃を愛することに絶望していた。平民の生まれだった第二后妃は、ハレムの統治に政治的な配慮を持ち込む国王の考え方が理解できなかったのだ。国王の愛を信じられなくなった第二后妃は、王以外の男にも愛情を求めた。幼かったアシュラフはそうとは知らずに母の密通を父に告げてしまう。激昂した父は母と密通相手(カリムの父親)をアシュラフの目の前で処刑した。

シュラフは父を憎んだが、長じるにつれて母の不義を恐れ始める。はたして自分は国王の実子なのか。今胡座をかいている第一王子の称号は母の嘘によって立脚した地位ではないのか。存在への疑念はアシュラフの自己肯定感を削り取った。生きる意味を見出せない彼は、命を縮める「パシャフの実」を口にして、緩やかな自殺を図っていた。

 

自身も他者も信用できないアシュラフ。ところが、眼前でウィルがアシュラフを庇って刺されたことで、ウィルの愛に気付かされる。

その後、シャムス国王が90歳で老衰死。国王は第二后妃を殺害してから、熟した「パシャフの実」を口にしていなかったという。熟した「パシャフの実」を食べないことで寿命を伸ばすのを辞めた国王と、熟していない「パシャフの実」を食べることで寿命を縮めていたアシュラフ。二人は似た者親子だったのだ。

王位はハキムが継承し、「パシャフの実」と縁を切ったアシュラフはウィルと穏やかな生活を送るのだった。

 

 

有閑階級に属し、煌びやかな生活を送る兄アシュラフと、積極的に庶民社会に立ち入る弟ハキム。一見すると、兄が貴族階級、弟が庶民階級の出自に見えるが、その素性は真逆である。ハキムの鷹揚さは貴族の家筋に因るところが大きく、アシュラフが弟ハキムと友好的な関係を築けるのは弟の気質を憎めないからであろう。

 

 

③カリム・ラシード(演:春野風)

王子たちに仕える従者。「パシャフの実」の管理人。

寡黙。アシュラフと肉体関係にある。

 

シュラフとハキムに抱かれたウィル。王子たちに翻弄される日々を送る中で、ウィルは忠実な従者カリムと交流を深める。

「パシャフの実」の管理人であるカリムは誰よりも「パシャフの実」を憎んでいた。

「私はパシャフが憎い。いっそのこと存在そのものを消してしまいたいと思ったこともある」

「私はいつか、アシュラフ様をパシャフの実の毒で殺してしまうかもしれない……」

止め処なく快楽を欲するアシュラフを案じているが、従者の立場である以上、命令に応じて「パシャフの実」を差し出さねばならない。シャムス王国の宝である実を葬ることもできない。実が存在している限り、アシュラフは実を求め続けて、毒に蝕まれていく。カリムは罪悪感と責任感の狭間で煩悶していた。

 

国王の死去とハキムの即位後、吹っ切れたアシュラフは「パシャフの実」中毒から脱する。カリムは自由の身となり、ウィルと共に英国へ渡った。

 

 

④アシュラフ×カリムEND

カリムルートから派生。ウィルの橋渡しでアシュラフとカリムの蟠りが解けるルート。

 

感情の表出を抑えて忠実な従者に徹していたカリムだったが、アシュラフと一対一で言葉を交わす間に、ついに本心が開示される。「もうこれ以上パシャフで寿命を縮めないでほしい」。カリムの涙ながらの訴えに対し、アシュラフは「もう二度と、パシャフの実で快楽を得ない」と約束する。

国王になれば王妃を迎えなければならないため、アシュラフは王位継承権を放棄し、カリムだけを愛することを選択する。

一方、ウィルは国に残留し、「パシャフの実」の研究に従事する。

ウィルと王族たちを閉じ込めていたハレムは、人生を謳歌できる場所、彼らにとっての楽園へと変質するのだった。