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創作物の感想

ゲーム『Lover’s Collection』感想

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女性向けショップから男性向けブランド「ラ・クリマ」のショップに異動した坂崎ひなこ。ファッションアドバイザーとして忙しい毎日を送る中、様々な男性たちとの出会いが待ち受ける。

有限会社イーアンツの傘下ブランドリボンマジックより2007年3月9日発売。

メンズファッションショップを舞台に、アドバイザーの恋を描く18禁乙女ゲーム

 

 

主人公の坂崎ひなこ(演:一色ヒカル)は22歳。身長160センチ、体重48キログラム。

幼少期から服飾に興味があった坂崎は、大学卒業後、アパレルメーカー「リヒトクラフト」に入社し、女性向けショップでファッションアドバイザーとして勤務していた。しかし、人手不足を理由に男性向けブランド「ラ・クリマ」のショップへの異動を命じられてしまう。

幸いにも「ラ・クリマ」の店長は、気心の知れた幼馴染みの小林悟(演:木島宇太)。彼と協力しながら、坂崎は畑違いのメンズファッションの現場で奮闘する。

 

 

攻略対象は、店長の小林悟、他店の店長である村田俊哉(演:空野太陽)、会社員の渡辺貴文(演:平井達矢)、ホストの柚月ハヤト(演:石川ゆうすけ)、劇団員の橋本虎太郎(演:舞蹴応援)、謎の人物北村直樹(演:竜宮ダイナ)の計六名。

 

 

プレイ順は、村田俊哉→渡辺貴文。

 

 

①村田俊哉(演:空野太陽)

25歳。身長176センチ、体重62キログラム。

メンズファッションショップ「BLUEMOON」の店長。ファッションアドバイザー。地区売り上げトップを三年間維持している。

 

「ラ・クリマ」と同じフロアに位置する「BLUEMOON」で店長を務める村田は、女性がメンズファッションに関わることに難色を示す。

村田「メンズブランドに女のスタッフって、雰囲気壊す気がするんだよね」

村田「ストイックな空気の中に、お前みたいなピンクっぽいのがいたら浮くだろ」

村田「メンズブランドは男の世界。つまり、このフロアはもっとこう、禁欲的であるべきなんだよ」

初対面の坂崎に対して差別的な言葉を投げ掛ける村田。

 

反目し合う坂崎と村田だったが、仕事の合間に会話を重ねる中で、心の距離が近付いていく。

植物園デートを経て、バレンタインを機に、交際へ発展。

 

ところが、アクセサリー部門の発足に伴い、村田は一年間海外研修へ行くことに。

「BLUEMOON」に転職する以前、宝石店でセールスの仕事をしていた村田は、宝飾デザインに関心があったが、自身の才能に限界を感じて宝石業界の仕事を断念していた。今回のアクセサリー部門の立ち上げは、夢へのリベンジであった。寂しさを抱えながら、坂崎は村田の旅立ちを後押しする。

 

一年後、自作のシルバーリングを手にした村田との再会で物語は幕を閉じる。

 

 

 

競合他店の店長との恋を描く村田ルート。

村田は尊大な男性だが、親しくなると隙を見せる。

部下たちに映画の話をする際には、

村田「それでさー、終わりの方がもうスゲエ迫力でさ!!

   あれなら、俺10回は見れるぜ」

と、砕けた言葉遣いに。

ビジネスマンとしての強気な発言の中で見せる、稚気とふてぶてしさ。その不均衡が村田の魅力へと繋がっている。

 

 

 

②渡辺貴文(演:平井達矢)

35歳。身長182センチ、体重73キログラム。眼鏡。

竹下物産ライフスタイル一課係長。

数ヶ月前に妻の島田幸枝(演:緒田マリ)と離婚し、娘の莉美(演:加乃みるく)と二人で暮らしている。

 

ショッピングモールで迷子の莉美を保護した坂崎。迎えに来た父親の渡辺は、幼い娘を厳しく叱責した。坂崎は莉美を庇って、渡辺を注意する。その場では立腹した様子の渡辺だったが、翌日以降、客として「ラ・クリマ」へ来店し始める。店員と顧客の立場を越えて、親密になる坂崎と渡辺。坂崎は渡辺家への出入りも許可され、莉美にも懐かれた。

元妻の幸枝の登場で波乱が起きるものの、エンディングにて坂崎と渡辺は結婚する。

 

 

 

離婚歴のある男性との恋を描く渡辺ルート。

渡辺は伝統的主義的性役割態度を示す人物であり、離婚に至った背景にはキャリア志向の妻との意見の不一致があった。

 

初恋の相手である上司の幸枝と結婚した渡辺。幸枝は臨月直前まで働き、出産後は休職した。

幸枝「……もういやよ!毎日毎日、子供と向き合って。仕事に戻りたいわ」

渡辺「仕方ないだろう。莉美はまだ乳飲み子だ。それに育児休暇だって取ってるじゃないか」

幸枝「あなたは全然とってないじゃない。大体、子供が産まれたら一緒に育てるって約束したじゃない」

早期の仕事復帰を望む幸枝は、育児休暇を取得しない渡辺に不満を募らせた。子どもを得ても仕事を継続できる夫に対し、妻は出産と育児でキャリアの中断を余儀なくされる。幸枝はその不平等を訴える。しかし、渡辺は妻の主張に耳を貸さず、「私も彼女も子供だった」「子供が子供を持ったんだ」と、妻と自身の人格を貶めることに終始する。

 

決定的な亀裂が入ったのは、復職してから数年後の出来事。

幸枝に昇進とニューヨーク勤務の話が舞い込む。会社の都合上、幸枝単身での渡米が決まったが、

渡辺「単身赴任で渡米するなんてことが、母親のやることか!!」

渡辺は「女性は仕事よりも子育てを優先すべき」という固定観念に基づき幸枝の単身赴任を強硬に反対。

仕事と家庭生活を天秤にかけた幸枝は、キャリアを選択し、二人の結婚生活は終わりを告げた。

 

渡辺の性別役割分業に対する意識は、離婚と坂崎との再婚を経ても揺るがない。エンディングの結婚生活を描く場面では、共働き家庭にもかかわらず、妻の坂崎にエプロンを着させ朝食を作らせる。固定化された価値観を盲信する渡辺の辞書には「反省」の文字はない。

 

本作が発売された2007年当時の男女の結婚観やワーク・ライフ・バランスに対する認識不足が垣間見えるエピソードである。