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創作物の感想

ゲーム『月あかりランチ OZ sings, The last fairy tale.』感想

永遠の夜に覆われた学校「星影学園」に迷い込んだ志貴春彦。自分が何者なのか、何故ここにいるのかも思い出せぬまま、己の為すべきことを模索するが……。

株式会社エクスのブランドEX-ONEより2013年5月31日発売。

ライマン・フランク・ボーム(Lyman Frank Baum)の小説『オズの魔法使い』(The Wonderful Wizard of Oz)を題材に、「オズの魔法使い」を目指す教師と女子生徒たちの恋を描く18禁ゲーム。公式ジャンル名は「ADV」。

 

 

主人公の志貴晴彦(演:三毛猫太郎)は、記憶喪失の青年。身長178センチ、体重66キログラム。

ある夜、志貴が目覚めると、見覚えのない場所にいた。

其処は永遠の夜に覆われた学校「星影学園」。周囲を森で囲まれ、敷地外への脱出は許されない、監獄の如き場所であった。

志貴の他にこの学園に囚われているのは、異世界から召喚された魔女候補の少女たちと、高校時代の志貴(便宜上ハルと呼ぶ)と、教師役の四名の魔女。

少女たちを元の世界へ帰すには、彼女らの願いを叶えて、学園から卒業させなければならないらしい。志貴は願いを成就させる「オズの魔法使い」になることを決意し、「星影学園」の教師に就任。勉学を教える傍ら、彼女たちの願いを探るが……。

 

 

オズの魔法使い」である志貴のお相手を務めるのは、四名の女子生徒―

「ブリキの樵」の水際フユ(演:浅野ゆず)、

「ライオン」のアブリル=ポワッソン(演:波奈束風景)、

「案山子」の皇夏乃(演:鈴藤ここあ)、

「ドロシー」のアキ(演:佐藤しずく)―。

 

その他に、BADEND及びBOOKMARKシナリオにて、

三名の教師―

「東の悪い魔女」のアズマ(演:五行なずな)、

「西の悪い魔女」の西野(演:森谷実園)、

「南の良い魔女」のミナミ(演:千津ころね)

―との濡れ場が用意されている。

 

なお、「北の良い魔女」の北山(演:響玲二)は男性キャラクターのため、単体エピソードは設けられていない。

 

 

プレイ順は、水際フユ編「冬の魔法使い」→アブリル=ポワッソン編「四月のお魚」→皇夏乃編「夏色恋歌」→アキ編「秋の蝶々は笛に寄る」→終章「OZ sings, The last fairy tale.」。

 

 

①水際フユ編「冬の魔法使い」

水際フユ(演:浅野ゆず)は戦争の世界から来訪した少女。身長156センチ。

感情の起伏が乏しく、合理的な判断を重視する傾向がある。

モデルは『オズの魔法使い』のブリキの樵。

 

ある日を境に、突如冬の気候に変化し、雪が降り積もった「星影学園」。フユの心的状況に応じて気候が変動したのではないかと問う志貴に対し、フユは「自分は戦争を願ったのでは?」と疑いを強める。だが、志貴は彼女の言動を鑑みて、これまで無感動だったフユに感情が芽生えたのでないかと推測する。

フユは志貴に告白し、二人は恋人関係になった。

 

それからしばらく後。「西の悪い魔女」の西野が影を使役し、学園内の生徒と教師を消し去ってしまう。辛くも生き延びたのは志貴とフユだけだった。フユの情報を取り込んだ戦闘人形を用意していた西野に苦戦したものの、フユが勝利を収めた。

 

勝敗を決した後、フユは学園に来る前の記憶を取り戻す。

故郷の世界で、フユは礼拝堂にいた。フユが出会ったのは、子どもたちを生かすために命を落とした母親。命終の期に「私が愛する子どもたちを守ってほしい」と託されたフユは、愛という感情に疑問を抱き、試しに「私に愛を教えてください」と祈りを捧げた。すると、意識が遠のき、「星影学園」に召喚されたのだ。

自らの願いは「愛を知る」ことだったのだと思い出したフユは、志貴との交際を通して、その願いがすでに達成されていることに思い至る。「ブリキの樵」は「オズの魔法使い」によって心を得ていたのである。

そうして、フユは「星影学園」を卒業し、志貴は学園に取り残されたのだった。

 

 

②アブリル=ポワッソン編「四月のお魚」

アブリル=ポワッソン(演:波奈束風景)は剣と魔法の幻想世界から来訪した少女。母国では王女の立場にいる。身長166センチ。

たおやかで理性的なクラスのリーダー格存在。

モデルは『オズの魔法使い』のライオン。

 

アブリルの発案で催し物の執行を決めた志貴は、計画を具体化するため、魔女たちの協力を請う。「北の良い魔女」である養護教諭の北山の元も訪ねるが、アブリルは北山の私物のカップを見て、表情を変える。カップに描かれたマークは、かつてアブリルの世界に魔物を持ち込んだ人物が手にしていた実験道具に刻まれていたマークと同じ図柄だったのだ。温厚な北山は、アブリルの世界に魔物を招いた魔道士だったのである。

 

春の訪れと共に、「星影学園」の桜は咲き誇る。

北山を避けていたアブリルだったが、「魔物を生む元凶を討ち果たす」という王族の義務と責任に殉ずるべく、北山に勝負を仕掛ける。だが、北山の魔力の前には為す術がない。

アブリルの虚勢の裏には恐れがあるのだと推察した志貴は、「怖がってもいいんだぞ」と声を掛ける。アブリルは、心裡に充満する不安と恐怖を認めざるを得なかった。アブリルは弱い自分を受け入れ、脅威に立ち向かう勇気を手に入れる。

最終的に勝負は引き分けに終わり、アブリルは北山と和解した。

 

絆を深めた志貴とアブリルは結ばれる。

蜜月を過ごす二人だったが、幸せな日々は唐突に終わりを告げる。

ある夜、理事長が学園から姿を消し、同僚教師のミナミも行方を晦ました。北山によれば、「星影学園」の崩壊が近付いているのだという。志貴に「元の世界に戻れる鍵」を手渡すと、北山も消滅した。

志貴は鍵を用いて女子生徒たちを卒業させ、アブリルも母国へ帰還させる。

帰国したアブリルは、『オズの魔法使い』にてライオンが百獣の王になったように、人と魔物を統治する為政者を目指すのだった。

 

残されたのは、志貴の意識のみ。彼の魂は、理事長の声に導かれるまま、次なるハッピーエンドを目指すのだった。

 

 

③皇夏乃編「夏色恋歌」

皇夏乃(演:鈴藤ここあ)は機械に管理された未来世界から来訪した少女。身長148センチ。

明るく元気で、好奇心に溢れたムードメーカー。

モデルは『オズの魔法使い』の案山子。

 

機械文明が高度に発展した世界から来た夏乃は、機械ものに強く、次々にロボットを発明する。だが、夏乃の心とは裏腹に、その肉体は限界を迎えようとしていた。バーチャルリアリティの世界で生まれ育った夏乃にとって、初めて生身の体で過ごす「星影学園」の生活は刺激的であり、興味の赴くまま、情報を際限なく取得し続けた結果、頭と体に負荷がかかったのである。押し寄せる情報の波を処理できなくなった夏乃の体は悲鳴を上げていた。

 

一刻も早く夏乃を卒業させなければならない。焦る志貴だったが、夏乃は「先生が好き。わたしに恋を教えてくれる?」と志貴への恋心を告白する。志貴は逡巡の末に彼女の気持ちに応えた。

夏乃の心理状況に呼応するように、「星影学園」は夏の気候に移り変わった。しばらくは元気な素振りを見せていた夏乃だったが、やがて長い眠りについてしまう。

志貴は「東の悪い魔女」であるアズマの力を借りて、夏乃を短時間だけ目覚めさせ、学園から卒業させる。

異次元を越える機械を作り、いつか先生に会いに来る。そう言い残すと、夏乃は「星影学園」から姿を消した。

 

誰もが幸せになれるハッピーエンドへ。志貴の魂は新たなる物語へ旅立つのだった。

 

 

④アキ編「秋の蝶々は笛に寄る」

アキ(演:佐藤しずく)は記憶喪失の少女。物静かで心優しい性格の持ち主。身長146センチ。

モデルは『オズの魔法使い』のドロシー。

 

学園生活を通して、惹かれ合う志貴とアキ。

二人の物語は、終章へと続く。

 

 

⑤終章「OZ sings, The last fairy tale.」

真相ルート。

 

アキと交際を始めた志貴。二人が肉体の快楽に溺れる中、志貴の分身である少年ハル(演:佐和真中)は「オズの写本」を手に学園内を調査していた。その写本には、他の世界の出来事(フユ、アブリル、夏乃の個別ルート)が記されていた。

 

ある夜、志貴は、「南の良い魔女」のミナミこと「星影学園」の理事長から「現実世界の志貴はすでに死亡しており、現在の志貴の体は現実の世界で死亡した志貴の体を再構成したものである」と説明を受ける。現在の志貴の体を再構成したのは西野であった。

現実世界の志貴は、アキこと神無月秋奈の幼馴染みであり、恋人だった。しかし、秋奈に会いに行く途中で、交通事故死した。志貴の死に絶望した秋奈は生まれながらの魔女の能力を解放させようしたため、魔女を検知する「星影学園」のシステムに引っかかり、強制的に魔女の隔離施設である「星影学園」へ連行された。秋奈の魔力は理事長によって「オズの写本」という形で封じられ、記憶も奪われた。

 

アキの魔力から生まれたハルは、少女ドロシーの忠犬「トト」に類する存在であり、「ドロシー」であるアキの魔女化を防ごうとしていた。

ところが、ついに「オズの写本」を入手したアキは、神無月秋奈の記憶を呼び戻し、魔女となってしまう。

ハルを体に取り込んだ志貴は、他の生徒らの協力を得て、アキを人間に戻した。

 

事件後、志貴は理事長から「星影学園」誕生の経緯を教えられる。

理事長は、生まれながらに未来を透視する能力を有した魔女だった。だが、その力は彼女を苦しめた。理事長が見通した世界は必ず滅んでいたからである。

案じた理事長は、破滅の未来を回避すべく、「世界を破滅させる力を持つ者」、すなわち魔女候補を閉じ込める施設「星影学園」を異次元空間に創設し、様々な世界の現在・過去・未来から「世界を破滅させる力を持つ者」を呼び寄せた。戦闘能力を持つフユ、カリスマ性と統率力を兼ね備えたアブリル、優れた知能を武器に技術革新を起こす夏乃、強大な魔力を秘めたアキ。彼女らはその才能で世界を壊す危険性を孕んでいたのである。

理事長の言葉を受けて、志貴は「ここに残って、ミナミも他の魔女たちも影たちも全部卒業させる」と意思を固めた。

教師になりたいフユ、人間も魔物も率いたいアブリル、次元を飛び越える機械を作りたい夏乃、そして、志貴のいない世界でも生きていくと決めたアキの卒業式を執り行うと、再び志貴は教壇に立つ。今度の生徒は「星影学園」に住まう影たちだ。

 

オズの魔法使い』から始まる〈オズ〉シリーズが、ボームの没後、書き手を変えて書き継がれたように。「オズの魔法使い」である志貴晴彦のfairy taleは、これからも続くのだった。