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創作物の感想

ゲーム『星の王女 光のつばさ』黒川悠弥ルート感想

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目の前に、一面に広がる見たこともない世界。ライブ旅行直前、バスが異世界に召喚された。乗車していたのは、軽音楽部の顧問教師や高校生たち。魔術師の老婆からこの世界へ導かれた目的を聞いた彼らは、世界を救うために旅立つが……。

美蕾より2006年4月29日発売。『星の王女』、『星の王女2』、『星の王女3~天・地・人の創世記~』に続く、星の王女シリーズ第四弾。

『星の王女 光のつばさ』と続編『星の王女 光のつばさ 恋のパティシエ』の二作同梱版。

異世界へ召喚された高校生たちの冒険を描く18禁乙女ゲーム

 

春日ひなたは明るく活発な高校三年生。友人たちやバイト仲間に恵まれて、楽しい日々を送っている。軽音楽部のマネージャーを務める同級生・原田奈緒(演:村平琴乃)の紹介でバンド活動に関わったひなたは、部員たちと共にライブ旅行へ向かうことに。

同行者は、軽音楽部の部員―原田奈緒、新川新汰(演:ヘルシー太郎)、紫堂一臣(演:紀之)、一ノ瀬凌(演:朝美仁志)―と顧問の国語教師・香坂創希(演:山芋タロウ)、用心棒役の剣道部主将・柏葉修(演:山下一真)、お目付け役の生徒会長・黒川悠弥(演:青島刃)と副会長・姫宮沙世(演:黒澤巴)ら。ところが、一同を乗せたバスは突如光に包まれてしまう。意識を取り戻すと、目の前には見たこともない世界が広がっていた。其処は虹の街・レイクール。どうやら未来世界であろうと目星をつけた彼らに、魔術師の老婆から思いもよらぬ事実が告げられる。彼らは予言書に記された救世主であり、この世界のために召喚された者たちだという。さらに、ひなたは予言書に選ばれた人間であった。

世界を救うためには、奪われた五つの珠を取り戻さなければならない。ひなたたちは予言書を携えて旅立つが……。

 

 

黒川悠弥ルートは、優等生の生徒会長の裏の顔を知るストーリー。

裕福な家庭に生まれ、秀才でスポーツ万能。生徒会長として人望も厚い黒川。だが、彼の性格には問題があった。

 

異世界に旅立つ数日前。

ひなたと透汰と一臣は不良たちに絡まれ、喧嘩沙汰になってしまう。その現場を目撃した黒川は学校に報告するという。暴力事件が明るみに出れば、軽音楽部は活動停止処分を受ける。見逃してほしいと訴えるひなたに対し、

「……分かった。黙っておいてあげるよ。でも、その代わり…俺の相手、しろよ?」

脅迫材料を得た黒川はひなたの体を要求する。その場では逃れたものの、黒川はひなたを監視し、「分かってるよな」「バラしたら俺もバラすから」と口止めをする。

 

黒川の鋭い舌鋒は異世界転移後も止まらなかった。五つの珠を取り戻す旅の合間にも「お前って意外と尻でかいのな」「そのキュートなお尻にはくショーツはどんな色が多いの?」と卑猥な発言を繰り返す。たちが悪いことに黒川は他の人間がいる場面では穏やかな優等生を演じており、ひなただけが黒川の裏の顔を知っていた。

 

だが、ひなたとは別の理由で、黒川を疑う人物がいた。ひなたの友人・奈緒である。奈緒は黒川が知らない男と話している場面を目撃していた。異世界に知り合いがいるはずがない。珠を奪った裏切り者は黒川ではないか。黒川は怪しいと奈緒は訴える。ひなたは黒川を信じるが、黒川の単独行動は増えていた。

ついに黒川は姿を消してしまう。その上、時期を見計らったかのように、テレシア王国が旅の一行を奇襲する。テレシア王国側は珠を取り戻しに来た一行の目的を把握している様子である。黒川がテレシア王国に情報を流したのでは?旅の仲間たちは黒川への不信感を抱き始める。

 

セルティエに辿り着いた一行は黒川と再会するが、その直後、敵側の攻撃を受けて、黒川を庇った奈緒は命を落としてしまう。奈緒の死を目に焼き付けた黒川は前世の記憶を思い出す。

 

黒川の単独行動。その目的は自身の過去を探ることだった。

「耳に聞こえる叫び声が消えない。悲鳴と断末魔の叫びはこの世界へ来てから日増しに強くなっていく」

黒川は異世界に来てから幻聴に悩まされていた。鮮烈な死のイメージは黒川悠弥として生まれる前、別の誰かであったときの魂に刻み込まれた記憶である。前世の自分はこの異世界で人を殺したことがあるのではないか。黒川は前世における己の行動に疑いを持ち、異世界の人々に話を聞いて回っていたのである。

 

奈緒の死を前にして黒川が取り戻したのは、珠を巡る戦乱の記憶だった。

襲撃を受けた街。逃げ回る人々。命を落とす若い母親と母に抱かれた赤ちゃん。

その赤ちゃんこそが黒川で、母親は奈緒であった。

黒川と奈緒は赤ちゃんと母親の生まれ変わりだったのである。

 

 

その後、一つの珠を取り戻した旅の一行は現代に帰還。異世界で命を落とした奈緒は一足先に現代に戻っていた。

異世界で凄絶な前世が明らかになった黒川と奈緒だったが、現代で二人の因縁は掘り下げられず、友人以上の関係には発展しなかった。黒川の性格にも変化は見られない。異世界の冒険は彼らの人生に何一つ影響を与えなかったのだ。

ここから物語は異世界ファンタジーから学園もの乙女ゲームに転換し、普通の高校生として黒川とひなたが恋人関係に至る場面で幕を閉じる。

 

 

黒川がひなたを好きになった理由は、

「お前を愛してる」

「いつからなのかはわからない。前からそうだったような気もするし、今でもお前のどこに惚れたのか理解できない」

と、黒川本人でも分からないとの弁。黒川と息が合う秀才美人の生徒会副会長・姫宮ではなく、あえてひなたを選ぶ理由は不明である。ひなたがセクハラ紛いの言動をしていた黒川に好意を抱く点も不可解である。

 

 

前世の記憶や異世界についても謎が残る。

異世界は未来の世界と明言されているが、未来世界の赤ちゃんが命を落とし、過去世界の黒川に転生したと仮定すると、タイムパラドックスが生じている。黒川と奈緒は未来と現代の間で輪廻転生を繰り返しているのか。真相は不明である。