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創作物の感想

体験版感想

2020年発売予定ゲーム体験版プレイ感想

 


・『東京24区』(HolicWorks)

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2020年5月29日発売予定。
舞台は2020年の東京。主人公の其扇晟尋は与党に所属する若手代議士である。そのルックスと若さで票を集め、会派の重鎮からも可愛がられていた。
8月のIAF(インターナショナルアスリートフェスティバル)東京大会開催を控えた4月半ば、渋谷スクランブル交差点で大規模な自動車爆発事故が起きる。爆発状況からテロと判断した政府は対策本部を立ち上げた。其扇もテロ事件の真相調査に動き出すが……。


2020年東京オリンピックに向けて制作された18禁BLゲーム。オリンピックならぬIAF開催に向けて尽力する男性たちの恋模様を描く。


元々は2019年12月発売予定だったが、二度の延期を重ねて5月発売と相成った本作。2019年から発売を待ち侘びていたユーザーも『東京24区』制作陣も2020年オリンピックが開催されると疑いもなく信じていたはずだ。しかし、ご存知の通り現実は我々の想像をはるかに飛び越えた事態が発生し、「世界的な総合スポーツ大会が開催される2020年」は消失した。
街から人が姿を消し、経済状況が悪化した2020年の東京を生きる者から見ると、『東京24区』の「IAFの話題で盛り上がるテレビ番組」も「観光客で混雑する渋谷駅」もまるで幻影である。
数ヶ月前までは確かに存在していた光景。この先も続くと思っていた日常。
けれど、今はもうない。新型コロナウイルスの流行と非常事態宣言が発令された東京を知った今、あの日常を無邪気に信じられるはずがない。

まさに2020年にプレイするからこそ意味のある作品なのだと思う。

 

体験版は攻略対象の一人である東郷遊馬(演:河村眞人)と父親が乗った乗用車が爆発事故に巻き込まれる場面で終了する。和やかに会話していた親子に突然降りかかる悪夢は、日常はいとも簡単に失われることを暗示しているかのようだ。

 

 

・『白昼夢の青写真』(Laplacian)

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2020年6月26日発売予定。
記憶と人格をテーマに、三つの平行世界を行き来しながら、「記憶が操作できるとき、個性は何によって定義されるのか」「揺らがない個性とは何か」を模索する18禁ゲーム

三つの平行世界はCASE1、CASE2、CASE3と呼ばれる。CASE1は2016年の神奈川県の学園を舞台に非常勤講師の男性と女子学生の恋を描く。CASE2は1959年のイギリス演劇界で惹かれ合う一組の男女の物語。CASE3は2061年の架空都市で生きる教育実習生の少女と学生の恋模様。主人公の「私」はこの三つの平行世界を巡っていく。
三つの平行世界の正体及び「私」が世界を巡る方法については、体験版で早くも明かされる。この種明かしが吉と出るのか、凶と出るのかはライターの腕次第といったところか。

 

本作で注目したいのは公式サイトのキャラクター紹介文である。他社の18禁ゲームと比べると、本作の公式サイトは異質である。
CASE2ヒロインのオリヴィアの説明は、

そういうときは男の方が折れてあげなければならない。男が折れてはいけないのは挿入中だけであり、本物の騎士はあえて折れてあげることをよく知っている。ちなみにこれは男に限った話ではない。女性のほうも、素直に「かまって」と言ってくれていいと私は思う。


CASE3桃ノ内すももの説明では、

直線的な競争社会の中に生きる我々メンズは、ことあるごとに他人と己を比べ、ときにライバルの足を引っぱり、小さな優劣に一喜一憂する。

と、〈私〉の自説を主張する。

 

通常、公式サイトのキャラクター紹介はユーザーに向けてキャラクターの性格や特徴を説明し購買意欲を高めさせるために用意されている。しかし、本作のキャラクター紹介は〈私〉から見た男性像・女性像を語るエッセイのような趣がある。ヒロインの魅力を語るよりも〈私〉の持論に力を入れる紹介文はなんとも薄気味悪い。


この〈私〉とは誰なのだろうか。
公式サイトを担当したLaplacianスタッフ?平行世界を行き来する「私」?
公式サイトにギミックを仕組んだと考えるのであれば、キャラクター紹介を書く〈私〉と平行世界を俯瞰する立場にある「私」は何かしらの関連性があると見るべきだろう。〈私〉と「私」は同一人物なのか。全ルートを経過した「私」が並行世界を振り返って書いたものなのか。何かしらの謎解きがあることに期待したい。

 


さて、体験版をプレイした動機はCASE2に興味を持ったからなのだが、このルート単体で一本のゲームにしてほしいほどに面白かった。

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舞台は1959年のイギリス・テンブリッジ。
盲目の父と二人で酒場を営むウィリアム・シェイクスピアには、〈完全記憶〉という特技があった。
彼はその特技を生かして、各地から集る客の話を題材に作話し、ロンドンの劇団に販売していた。

ある日、とある事情で貴族の庭に忍び込んだウィリアムは、二人の貴族、オリヴィア・ベリー(演:神代岬)とハロルド・スペンサー(演:牛蛙キタロウ)と出会う。

即座にウィリアムを処刑しようとするスペンサーに対し、オリヴィアはウィリアムを奴隷として身請けすることを申し出る。

貴族でありながら演劇を愛するオリヴィアは、自身が座長を務める一座のために脚本を書き、劇団を存続させれば命は助けるとウィリアムに提案する。ウィリアムは酒場の切り盛りを続けながらオリヴィア一座の座付き作家を始めることになる。

 

 

実在の人物、ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)とクリストファー・マーロウ(Christopher Marlowe)をモデルにした男性キャラクターたちと、演劇に情熱を燃やす男装の貴族オリヴィアの思惑が交錯する物語。

 

才能に無自覚なウィリアム。

ウィリアムに対抗する劇作家クリストファー。

ウィリアムの才能を信じるオリヴィア。

 

戯曲を巡って火花を散らすウィリアムとクリストファー、二人の劇作家の関係は読み応えがある。

ウィリアムを支えるオリヴィアは女性差別と戦いながら、演劇を追求する力強い女性だ。

自他ともに妥協を許さないオリヴィアがウィリアムの才能に賭けたのは、それほどに彼を信じている証左だろう。

 

ウィリアムはオリヴィアの期待に応えられるのか、それとも横槍が入って夢を叶える前に命を落とすのか。

史実のウィリアム・シェイクスピアとクリストファー・マーロウの人生を知っていてもなお、いや知っているからこそ、本作のウィリアムとクリストファーがどんな結末を迎えるのか目が離せない。